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キャンペーン バトルロンド3周年感謝祭 西園寺アイランド? サマーフェスタ2009 極秘ファイルを入手せよ! バトルロンド2周年感謝祭 ウインターフェスタ(2008) 2nd Anniversary サマーフェスタ バトルロンド1周年感謝祭 ウィンターフェスタ 第五弾、第六弾参戦発表記念? 1st Anniversary 初回ログインキャンペーン バトルロンド3周年感謝祭 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/event/anniversary03/ 期間2010年4月22日(木)14 00~2010年5月10日(月)10 00まで キャンペーン内容 新人オーナー応援キャンペーン・試用チケット8枚プレゼント! アイテムプレゼント! スタッフ神姫を探せ! 期間限定特別ミッション「神姫プラネットを開拓せよ!」 お詫び/3周年イベントミッション無期延期のお知らせ 10.04.28バトルロンド3周年感謝祭「神姫プラネットを開拓せよ!」の実施により、サーバーアクセスに時間がかかる不具合が発生しておりますため、本イベントは無期延期とさせていただきます。 上へ戻る 西園寺アイランド? 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/event/sp_mission02/rule.html 期間2010年3月18日(木)14 00~2010年まで3月31日(水)10:00まで ※3月30日(火)10 00から延長 詳細は西園寺アイランド?のページにて。 上へ戻る サマーフェスタ2009 期間限定のイベントミッションや、アイテムプレゼントもございますので、すでにバトルロンドで遊んでる方も、 これからバトルロンドを始める方もふるってご参加下さい!! 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/event/summer_festa02/index.html 期間2009年7月23日(木)12 00~2009年9月8日(火)12 00まで ※9月1日(火)12:00から延長 キャンペーン内容 イベントミッション「サイバーテロから街を救え!」 アイテム「鈴リボン(黒)」プレゼント!! バッテリー消費量半減! 詳細はサマーフェスタ2009のページにて。 上へ戻る 極秘ファイルを入手せよ! トレジャーアイランド消滅まであとわずか!極秘ファイルを探し出せ! 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/event/sp_mission/index.html 期間2009年6月18日(木)12 00~2009年6月29日(月)12 00まで キャンペーン内容 トレジャーサーチ 神姫オーナー一致団結せよ! 未確認物体あらわる! 詳細は極秘ファイルを入手せよのページにて。 事前に常設ミッションとして設置されていたトレジャーアイランドの情報はこちら。 上へ戻る バトルロンド2周年感謝祭 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/event/anniversary02/ 期間2009年4月23日(木)PM12 00~2009年5月25日(月)PM12 00まで キャンペーン内容 揃えてGET!ビンゴバトル! スタッフ神姫を倒せ! ログイン時、アイテム「バースデーキャンドル」プレゼント バッテリー消費量半減 詳細はバトルロンド2周年感謝祭のページにて。 上へ戻る ウインターフェスタ(2008) 期間限定のイベントミッションや、アイテムプレゼントもございますので、すでにバトルロンドで遊んでる方も、 これからバトルロンドを始める方もふるってご参加下さい!! 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/event/winter_festa02/index.html 期間2008年12月19日(金)12 00~2009年1月19日(月)12 00まで キャンペーン内容 イベントミッション サイバーフロント強襲作戦 アイテム「結晶の髪飾り」プレゼント! バッテリー消費半減! 詳細はウインターフェスタ2008のページにて。 上へ戻る 2nd Anniversary 武装神姫発売二周年記念!! 公式ページhttp //www.busou.konami.jp/anniversary/an2008.html 期間2008年9月12日(金)~2008年9月24日(水)12 00まで キャンペーン内容 その1 武装神姫オリジナル壁紙配信!(現在も入手可能) その2 アイテム「薔薇の髪飾り」プレゼント! 上へ戻る サマーフェスタ 期間限定のイベントミッションや、アイテムプレゼントもございますので、すでにバトルロンドで遊んでいる方も、 これからバトルロンドを始める方もふるってご参加ください!! 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/event/summer_festa/index.html 期間2008年7月18日(金)PM12 00~2008年9月1日(月)PM12 00まで キャンペーン内容 イベントミッション「ドッキドキ・トレジャーアイランド」 ログイン特典「イヤリング(ムーン)」プレゼント!! バッテリー消費半減 詳細はサマーフェスタのページにて。 上へ戻る バトルロンド1周年感謝祭 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/event/anniversary/index.html 期間2008年4月23日(水)PM12 00~2008年5月7日(水)PM12 00まで キャンペーン内容 スタッフ神姫を倒せ 魚拓ランキング アイテム「腕時計(白)」プレゼント バッテリー消費量半減 フブキ立体化プロジェクト始動 上へ戻る ウィンターフェスタ バトルロンドを遊び込んでいる人も、これから“ちょっと始めようかな?”という人も、この冬、バトルロンドをプレイする人みんなが“得”しちゃう4つの特典を紹介! 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/event/winter_festa/index.html 期間2007年12月21日(金)PM12 00~2008年1月7日(月)PM12 00まで キャンペーン内容 イリーガル・レプリカ討伐指令 アイテム「雪ダルマ」プレゼント バッテリー消費量半減 神姫ポイント購入者に抽選でプレゼント 詳細はウィンターフェスタのページにて。 上へ戻る 第五弾、第六弾参戦発表記念? アイテム「ローズブーケ(青)」をプレゼント!2008/3/21 12 00~4/7 12 00の間にバトルロンド・ジオラマスタジオにログインした方全員に、アイテム「ローズブーケ(青)をプレゼントいたします! 上へ戻る 1st Anniversary 武装神姫発売一周年記念! 公式ページhttp //www.busou.konami.jp/anniversary/index.html 期間2007年9月7日(金)PM12 00~2007年10月8日(月)PM12 00まで キャンペーン内容 その1 「武装神姫一周年記念オリジナル壁紙」プレゼント(現在も入手可能) その2 アイテム「ローズブーケ(黄)」プレゼント 上へ戻る 初回ログインキャンペーン 初回ログイン 無料パーツプレゼントKONAMI IDを作成し、武装神姫(バトルロンド・ジオラマスタジオ問わず)に最初にログインした時点で以下のアイテムがプレゼントされます。 忍者型フブキ 一体 忍装備 一式 武器「忍刃鎌“散梅”」 腰装備「忍草摺“紫蘭”」 胸装備「忍装束“紫苑”」 急速バッテリー充電器 10個(使うとなくなってしまう消費アイテム) 武装パーツ試用チケット 3枚(使うとなくなってしまう消費アイテム) その他補足他の忍装備は アチーブメント を達成すると貰えます大手裏剣“白詰草”はアクセスコードを入力すると貰えますhttp //www.shinki-net.konami.jp/info/tgs2006rpt.html 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/battlerondo/start/campaign.html 上へ戻る
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凪さん家の弁慶ちゃん 「まずいわね…」 ここは私立黒葉学園、高等部校舎の三階、階段踊り場。 「…何が…?」 壁にもたれかかっている男が聞き返す。 「まずいじゃないの」 踊り場の窓から外を見ながら答える女。 「だから何が…」 再び聞き返す男。その肩には小さな少女が佇んでいる。 「何がって決まっているでしょ?」 若干焦っているような声色で答える女。その肩にも小さな少女。 「…わかりやすく言え…」 呆れたように訊く男。 「まずいわ…即戦力が必要よ…」 腕を組みながら考え込む女。 「なんの…?」 明後日の方向を見つつ訊く男。 「はぁ~。あのねぇ?それはもちろん…」 女はやれやれといった表情で言い放つ… 「この私立黒葉学園神姫部のよ!!」 第一話【求む!君の力!】 静まり返る踊り場。 「…まぁ、まだ「部」じゃないけどな…」 「う、うるさいわね!」 「むしろ同好会なのかすら怪しい」 「うるさいってば…!」 「まぁまぁマスター」 と、今まで黙っていた小さな少女。女の肩に乗っていた一人が口を開いた。 「何よアーサーまで~」 「いえ、反論しているわけではないですよ?」 「まぁ、それはわかってるわよ…」 「…同好会の申請をしてから一ヶ月以内に五人集まらなければ解散…か…」 男が呟く。 「そうよ。で今四人揃っているわ!」 「でも必要人数は五人…期限は明日まで」 今まで黙っていた男の肩に乗っていた小さな少女がぼそりと言う。 「もう誰でも良いから数合わせに入れたら良い…」 「それじゃ駄目よ!欲しいのは即戦力よ!クラスはセカンド!もしくはそれに準ずるポイント獲得者よ!」 「高校でセカンドなんて中々いないだろうに…」 「そうよ!だからサードの上の上でも良いって言ってるじゃない!」 「ほとんど同じだろ…」 「うるさいわね~今集まったメンバーを見なさいよ! 四人中私とあんたとあいつがセカンド、あいつの妹がサードの上位! ここまでこだわって集めたんだから、いま諦めたら後悔後の祭りじゃない!!」 「だから人が集まらないんだろ?」 「ぐ…」 「…とりあえず…それはいいから神姫センターに行ってポイント稼ぎでもしよう…」 「と、とりあえずとは何よ!」 「それに…」 「…?何よ」 「今からなら学校帰りの奴らが参戦しているかもしれないだろ…」 「…あ、なるほど…よ~し!絶対スカウトしてやる!!」 「はぁ…」 男はため息をついた。どうしたものやら…と。 「いけ!弁慶!!」 「…うん」 広大なバトルフィールド。 荒野を駆ける神姫が一体。 対するは地上を滑るように飛行する神姫。 弁慶と呼ばれた神姫は大地を蹴り、一気に跳躍する。 その右手には巨大な塊。それは【セブン】と呼ばれていた。 【セブン】とはその名の如く、七つの装備が合わさった弁慶が使用するカスタム武装である。 この【セブン】はAM社のパイルバンカーをベースに様々な武装で構成されている。 その装備は一番から 1.パイルバンカー 2.キャノン砲 3.ガトリング砲 4.2連装ビームバスター 5.ミサイルランチャー 6.手榴弾ポッド 7.光の翼 で構成され、状況に合わせて武装を選択、もしくは組み合わせることによって数々の戦局に対応可能にした万能装備である。 しかしその装備重量は通常の武装神姫用装備と比べ、はるかに重く、普通に使用するだけでも多大な苦労を有する。 だが、そんな武装をぱっと見軽々と扱っていられるのは七番目の武装【光の翼】という補助推進システムのお陰である。 逆にこれが機能しなかった場合は単なるカウンターウエイトにしかならないであろう。 地上を駆ける弁慶も、この【光の翼】をたくみに使用して【セブン】を制御している。 これの使い方を理解していない普通の神姫にとっては【光の翼】を使用してもこの巨大な代物を制御するのでやっとで、満足に扱う事はできないだろう。 この【セブン】を満足に扱えるのはマスターの凪千空と共に設計した凪千空の武装神姫、犬型ハウリンがベースの弁慶のみ。 そういう意味では単純に使うだけ、持つだけならなら誰でも出来るこの【セブン】も事実上は弁慶専用の装備と言えるだろう。 そんな弁慶は今日、後一勝でセカンド昇格をかけた試合に赴いていた。 「飛んで!弁慶!」 「…うん」 相手の大型ビームをジャンプで回避、セブンに装備された光の翼を使用して空に浮いた状態から横へ移動。 さっきまでいた場所はビームによって焼かれていた。 「今日は絶対勝つんだから!」 「…うん…!」 「三番で牽制、五番で包囲、七番使用で接近して一番!」 「…わかった…!」 弁慶は相手に対し三番のガトリングを乱射。命中が目的ではないので標準は適当。 「…いけ…」 発射されるミサイル群。しかし相手の移動速度は凄まじい。 「速いなぁ…」 「ミサイル追いつかない…どうする…?」 「ん…よぅし、ミサイルに気をとられているうちに七番で最大加速しよう!そして一番!」 「…言うと思った」 「えへ」 「…ふふ」 やっぱり弁慶は凄いなぁ。言ってる途中から言おうとした行動を実行してる。 「…突撃…!」 広がる翼、その瞬間弁慶の姿が霞んで消える。 狙うは相手の神姫。マオチャオに大型のブースターを多数装備して機動力を向上させているみたい。 「…はぁぁぁ…!」 弁慶が一番、パイルバンカーを突き出す体制に移行する。 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」 相手の斜め後方から一気に突貫する弁慶。でも 「あまいの!」 「…!」 相手マオチャオが急激に方向転換。 ぐるりと一回りしたのち、背部ブースターがその回転によって質量攻撃となり、偶然なのか狙ってなのか…接近しすぎた弁慶に打ち付けられる。 「…くぅ…!」 ドガァァァァァン!! セブンで何とか防御するもはるか遠くへと吹っ飛ばされる弁慶。 そのまま盛り上がった岩の壁に激突する。 「大丈夫!?」 僕は思わず叫ぶ。 「…痛い…でも平気」 岩の瓦礫の中から立ち上がる弁慶。 「注意して!」 次が来るかも!! 「…もうしてるよ」 光の翼を再び展開させて飛び上がる弁慶。 「…どこ…?」 「いない…?」 上空から索敵する。もちろん的にならないように小刻みに軌道を変えて。 「ここだよ!」 「…!」 いきなり下から声。 「弁慶!」 「…わ…!」 下方からのクローアッパーが弁慶を襲う。 弁慶はそれを何とか回避、でも 「ぐぅ…!?」 あるはずのない背中からの衝撃。その衝撃で地面に落下、そのまま激突する。 「な、なに…?」 よろりと立ち上がる弁慶。 「弁慶!右!いや左…え、えぇぇぇぇ!?」 「千空?なに??…え…何だこれ…」 僕達は驚くしかなかった。だって… 「ねぇ、なんかマオチャオがいっぱいいるように見えるんだけど…」 「うん…そう見える…」 弁慶の周囲にはブースターを排除した相手マオチャオがいた。 いっぱい…。 「「??????」」 「いくの!」 と相手マオチャオがう動きを見せる。時には一人、時には二人、三人四人と増えたり減ったり。弁慶の周囲をめまぐるしく動いている。 「え…。うあ…!」 正面からの爪が弁慶にヒットする。次は右、後ろ、左と思わせてまた前…四方八方からの攻撃を受ける弁慶。この状況じゃセブンは盾にしかならない。 「ぐ、あ、わにゃ、くぅ…」 「え、~と…!?」 焦る僕。ええと、こんなの初めてなんだけど~!! 「落ち着け千空…まだ大丈夫…」 「…弁慶…。良ぉし!!七番最大!あれ使っちゃうよ!!」 「…わかった…!」 光の翼を限界起動させる。紅く輝く翼が弁慶を包む。 「にゃ!?」 一瞬ひるむマオチャオ。 「今だ!弁慶ぇ!!」 「…うん…!!」 一気に飛び上がる弁慶。その高度はステージの上昇限界まで達している。 そして今度は一気に急降下。内臓火器を一斉発射して周囲を爆撃。 ガトリングが鋼鉄の雨となり、ミサイルの渦が嵐を呼ぶ。その雲の合間から煌くビームランチャーの光と流星の如く降り注ぐキャノン砲の追撃。おまけに手榴弾ポッドの隕石がマオチャオがいた周囲に降り注ぐ。 これらは当たらなくても良い。当てるのは一つだけで良い! 「わ、わわわぁぁぁ~!!」 いきなりの災厄に驚くマオチャオ。 響く爆音。その時、何の影響かはわからないけれどたくさんいたマオチャオが消えて、一人になった。 「…ラッキー!見えたよ…!」 「…そこ!!」 「え、うそぉ!?」 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」 後は突撃あるのみ!持ち方を変えてパイルバンカーを準備! 僕と弁慶の二人の声が合わさってその名を叫ぶ。 「「七つの混沌(セブン・オブ・カオス)!!」」 ドッゴォォォォォォォン!! パイルバンカーの射突音がステージ内に響く。 「やった…??」 バチバチ… 「……く…」 弁慶の苦い声。 「浅い…の!」 とたんマオチャオの声が響き閃光が走る。それと共に辺りを覆っていた硝煙が吹き飛んだ。 「ねここぉぉ!フィンガー!!!」 「…ぐ、あぁぁ…」 弁慶の苦しそうな声がインカムに響く。 「弁慶!」 弁慶を包む凄まじいスパーク。その出所であるクローは弁慶の腹部に突き刺さり、その体を貫いていた。 「すぱぁく、えんどぉぉぉぉぉぉ!!!」 「くぅ…!!」 一気に閃光が強くなり弁慶が黄色い光に包まれる。 「弁慶!!」 光がやむ。その体から爪が引き抜かれ、ドサリと崩れる弁慶。 「弁慶!!弁慶!!」 「やったの!…え」 勝利を確信するマオチャオこと、対戦相手のねここちゃん。でもその表情が変わる。 「…ぐ…ぅ」 ぐらりと立ち上がる弁慶。セブンを支えにしてキッとねここちゃんを睨む。 さすがに驚いた。 「べ、弁慶…?」 「…はぁ…はぁ…」 ずりずりと体を引きずりながらもなおねここちゃんに接近する弁慶。 「だ、駄目だよ!動いちゃ!」 思わず気遣うねここ。 「…うるさい…まだ負けてない…」 「弁慶!もう良いよ!ねここちゃんの言う通りだよ!」 「…千空…勝つって言った…だから嫌だ…」 「はぁぁあぁぁ~!」 セブンを大きく振りかぶる弁慶。 あまりの威圧にねここちゃんの動きが固まる。 「サド…ン…インパクト…!!」 ドッカァァァァンン!! 響く炸裂音。その鉄槌は当初狙っていたであろう腹部から大きく外れ、ねここちゃんの左肩を掠っただけだった。 それが最後の力だったのかよろけて倒れこむ弁慶。 その瞬間 『試合終了。Winner,ねここ』 ジャッジAIの機械音声が合図を告げた。 「弁慶…」 「…」 マシン内でうなだれる弁慶。 「弁慶?」 「…ごめん…負けた…強かった…」 「うん、強かった。でも弁慶も良くやったってば」 「でもセカンド上がれない…」 「そうだね…セカンド昇格はねここちゃんだね…さすがって感じ」 「…ごめん…駄目な奴で」 「そんな事無いよ!」 「千空…」 「追いついて勝てば良いんだよ!ほら、前負けてから五連勝だよ?だから次は六連勝だって!」 「千空…うん…今度は負けない…あ…」 「ん?」 「駄目だ…」 「え?」 「セブンが…」 「…!」 あらら、完全にショートしてる…。セブンは戦闘システム直結型だから…内部ダメージが限界を超えたかぁ…それとも無茶な強化が祟って寿命がきたかな…。 「ごめん…」 「いいって、また二人で作ろう?」 「千空…」 「もっと強いの作っちゃおう!!」 「…うん…うん!!」 「じゃ、早速帰って製作開始だよ!」 「うん!!」 「どう?」 ねここ対弁慶。その試合映像を見ていた女が聞く。 「良いんじゃないか?」 男が答える。 「そうよね!!間違いないわ!!」 女は意気込んだ。 「さぁ、どうしよっか?」 「…うぅ~ん」 僕達はセブンについてあれやこれやと考えながら帰路につこうとしていた。 そんなセンターの入り口に人影。 「ちょいとそこの君君!!」 「?」 振り向くと女の人と男の人。あ、制服がうちと一緒だ…て事は黒葉学園の生徒? 「そう!君!!」 女の人が僕を指差す。 「その制服は黒葉学園の制服!つまりは生徒!そして神姫所持者でランクはサード上位!!」 「へ、あ、はい…」 僕と弁慶はきょとんとしていた。 「求む!君の力!!黒葉学園神姫部に来なさい!!」 「え、えぇぇぇぇぇぇ~????」 いきなり出てきてこの人は何なんだろう…神姫部?そんな部活あったかな…? そんな僕の疑問を尻目に、僕と弁慶の、神姫を取り巻く世界は確実に動き出した。
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「ジェネシスちゃん、大丈夫っ!?」 「な……なんとかっ。振り落とされないようにするだけで精一杯ですが」 音速を突破し、周囲には音もなく戦場を駆け抜ける二人。 二人が通り過ぎた空間には、直後凄まじいソニックブームが巻き起こり、周囲に配置されていた不運な敵機が吹き飛ばされていく。 それは時間にすればほんの一瞬なのだけれど、激しいGに耐える二人には一瞬とも永遠とも思える時間の流れ。 そして正面に、巨大な電波塔のような建造物が見えてくる。 周囲に敵は今のところ見当たらない、どうやら主力の大半は3~4エリア周辺に配置していたみたいだ。 「あれです! あそこから突入しますので」 「……了解っ。加速解除!……きゃぁっ!?」 ジェネシスを投下するため加速を緩めた途端、塔の根元より複数の強烈な閃光がねここに襲い掛かる。 急速回避して直撃は避けたけど……明らかに今までとは違う精度だ。 「今のは……あいつなのっ!」 「あれは……ネオボードバイザー・ガンシンガー!」 塔の根元に佇む巨大な人影。 それはジェネシスが使用するリボルケインの原型機、ソードダンサーの姉妹機であるガンシンガー。 そして、その巨大なアーマードモジュールの装着者となっていたのが…… 「エスト!?」 ねここの飼い方・劇場版 ~十一章~ 塔より全周波に渡って通信が流されてくる。 その声はそれなりに若い男の声だ。だが声質は歪み、他者を憎しみ蔑む様な雰囲気を滲み出させている。 『どうかね、正義の味方気取りの愚かな武装神姫ども。 その正義気取りにお答えして最高の舞台を用意して差し上げたよ。 友人を打ち倒して世界を守る、か。それとも倒され朽ち果て、我等の手先になるか。お前たちの運命はそれだけだ。』 塔の前に佇むエスト。……いや、今はガンシンガーと言うべきだろう。 彼女の全身はブリガンディモードになったガンシンガーと一体化していた。 「エストちゃん、どうしちゃったの!?」 思わず叫ぶねここ、だが彼女は一切の反応を示さない。その目に輝きは鳴く、ただ命令に従うだけの殺人マシーンのような虚ろな目。 『彼女は思った以上に頑強だったがね、我等の技術力を持ってすれば不可能ではなかったよ。フフフ……無益な抵抗だったな。 ……そして、今は我等の忠実な番犬だ。精々楽しく遊ぶ事だな』 「そんなっ!?」 『嗚呼、忘れる所だった。彼女ごと破壊しても一向に構わんが、その場合全データが修復不能、ついでに本体側も自壊するようしておいた、まぁ精々頑張りたまえ』 男が言い終わると同時にエクセルビームライフル“ロンゴミニアド”を構え、連続して狙撃をしてくるエスト。 『ねここ急速回避!』 「やってるけど、でもっ!」 再び再加速を掛け火線から逃れる。しかしその射撃は正確かつ高出力で、直撃こそないけれど各部装甲がチリチリと悲鳴を上げ始めている。 それに、しがみ付いているだけのジェネシスへの負担が大きい。 『ねここはエストちゃんの相手を! ジェネシスはこのまま突入してください、急いで!』 「しかし、ねここだけではっ!」 「行って! ……何時までも背中に乗られてると……足手まといなのっ!」 ねここはそう断言。でもその目からはポロポロと涙が溢れ流れて…… 「わかりました……マスター、リボルケインを!」 『おぅ! やっちまえジェネシスっ』 シューティングスターよりダイブ、自由落下していくジェネシス。 やがて、彼方から飛来した戦闘機にタイミングをあわせ絶妙に着地。 「モードブリガンディ!」 ジェネシスが鋭く叫ぶ。同時にリボルケインが展開、ジェネシスを包み込むようにして装着。 白銀の帝王、爆誕! 『続いて行くぞ!』 「了解です……ツゥゥゥゥゥル!!コネクトォォォォォォ!!!」 リボルケインに続き彼方から飛来したマイナスドライバーを、天高く掲げた右腕に装備! 「ディバイディング!!ドライバァァァ!!!」 そのまま勢いを殺すことなく、いやそれどころか推力を全開にして塔の基部に特攻をかけるジェネシス。 「…若い…」 だがその突入位置を容易に予測したエストがチャージングチューブを接続したロンゴミニアドを構え、最大出力でジェネシスを撃ち砕かんと待ち構えていた。 特攻してくるジェネシスを悠々と待ち受け、その破壊の槍で粉砕せんとするエスト。 『ねここ!』 「そんなこと、させないのっ!」 ジェネシスを撃ち抜かんとするため、ねここへの砲撃は止まっていた。砲撃が停止した瞬間ねここは艦首を翻し、主砲のローエングリンを放つ。 目標はロンゴミニアド。だけど旋回中に発射したビームは目標を外れ、エストの足元へ着弾。 「死ね」 「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」 フル出力の一撃は直撃コースを外れ、虚しいエネルギーの浪費と終わる。地面を抉ったビームはエストの足場を切り崩し、それが運良く照準を狂わせたのだ。その隙にジェネシスは電脳空間を切り裂き、中心部へとダイブを敢行する。 『ち、追えエスト……Gを八つ裂きにしてしまえ』 「は……」 まだ開いたままのゲートへ突入せんとするエスト。だが、その寸前、側面からの一撃にエストは大きく吹き飛ばされる。 ねここが加速をかけて体当たりをかけたのだ。シューティングスターの推力に物を云わせた強引で強烈な突進。 そのままゲートの前に立ちはだかり、ファイティングポーズを取る。 やがて吹き飛ばされたエストもゆっくりと立ち上がる。重装甲で全身を覆ったエストにダメージは感じられない。 出力と装甲が違いすぎる。だけど…… 「絶対に……ここは通さないんだからっ!」 『どうだジェネシス、中核反応はあったか?』 「はい……キャッチしました。あと50」 一方ジェネシスは制御プログラムの階層まで潜り込んでいた。 やがて彼女の前に姿を現す、空中に浮かぶ巨大な金属球。神姫よりもそのサイズは遥かに大きい。 「……あれですね、一気に行きます!」 ジェネシスが全身に内装された砲門を展開する。Gのキャノンが、両腕のビームユニットが、腰のヴェスバーが。 そして周囲には残存していたドラグーンが。全砲門が目標である金属球へと照準を合わせられる。 その時、金属球に赤いラインが浮かびあがる。それは金属球に目の様な模様を書き上げ、同時に内部より何本かの細長い円柱状のフレキシブルアームがせり出してくる。 「な!?」 ジェネシスがその変化にひるんだ瞬間、アームの先端より放たれる多数のリングレーザー。 ブリガンディモードでは小回りに欠けるため、大きく回避半径を取らざるを得ない。攻撃態勢を解除してスラスターで回避行動を取る。 更に追撃のつもりか、目に相当する部分から極太の拡散レーザーを発射。 ジェネシスはリボルケインを巡航形態にチェンジさせて一旦後退、間合いを取る。 『……ありゃタングラムか。自衛プログラムとして、HOSの暴走起動用プログラムに融合させてやがる』 「逆に言えば、アレにワクチンを撃ち込めばこの事態を収拾出来るわけですね」 『そうなるな……よし、全力でぶちかましてやれ!』 「はいっ! モードブリガンディ!」 全推進系を全開にし、超高速で突撃。咆哮と共に再び鎧を纏い、悪を断つ剣と共にタングラムへと突き抜けてゆく。 それを迎撃するように、タングラムの目からは極太の収束レーザーが射出される。だがそれをエクスカリバーで歪め切り裂きながら突撃するジェネシス、そして。 「必殺!リボルクラッシュ!」 雷光一閃! 彼女の鮮やかな一撃は、巨大なタングラムを完全に真っ二つに分断させた。そのままデータの藻屑となって崩壊していくかに見えたタングラム。 だが… 「そんな、復活した!?」 ジェネシスの叫びが木霊する。一瞬崩壊していくかに見えたタングラムは損傷部分を修復、直ぐに元の状態へと復元を果たしてしまった。 「アイツは無敵なんですかマスター!?」 『ちょっと待て、今のでデータが取れた。……何処からか修復プログラムが流入して復元されたらしいな。流入元はこの近辺じゃない……ルート検索。……いた。補修プログラムを持ってるのは…ガンシンガー!』 『……という訳で、アイツを倒さないとワクチンが投与出来ないみたい。ねここ……お願いっ』 『しかも厄介な事に同時にだ、片方だけ破壊しても互いに補完しあうらしくってな。ジェネシスの方は準備万端……あとは其方次第だ』 「な……なんとかやってみるのっ!」 そうは答えてくれるものの、戦況は悪い。 元々ネオボードバイザーと武装神姫では出力と装甲に雲泥の差がある。 出力に物を云わせ総計5門のビーム砲を連射、尚且つエストの高い処理能力によってその射線は正確無比。 ねここもイリュージョンシステムで撹乱を行うものの、砲撃ではエスト諸共吹き飛ばしかねないので迂闊に攻撃が出来ない。 『何か手段があるはず……何か』 ガンシンガーのデータを手元のコンソールに呼び出し、機体特性を調べ上げる。 変形システムを搭載してる機体は大抵の場合各種機構が複雑になり、脆い部分が存在しやすくなる。その辺りに突破口がないだろうか。 だがこの機体は全身に渡ってフレームが走ってる上に、素体と合体することにより負荷の分散を図ってる。 太腿部分は露出してる。しかしエストに一部でも傷を付けた場合どんな悪影響が出るかわからないので、迂闊に脚部を切断するわけにも…… アーマーの配置状況はどうだろう。脚部、腕部…胸部、これなら…いけるかもっ。 『ねここ、今から送る戦術を試してっ!』 「あいあいさー☆」 ねここにも私の気持ちが伝わったのか、急に陽気な声になる。 シューティングスターを背負ったまま、軽やかに幻惑のダンスを踊る。背中に重量級の物体を背負っているとは思えない身軽さ。 ガンシンガーの周囲に出現し続ける無数のねここ。それに対して全身の火器で片っ端から撃ち落してゆくガンシンガー。 だけど全て素通り、ホログラフが虚しく拡散するだけ。何故ならねここは…… 「こっちだよっ!」 遥か上空、相手の真上から急降下を掛ける! 同時に両舷のローエングリン砲口部からビーム刃を展開。それはライフルの全長に匹敵し、サーベルというより長大な騎兵槍とでも言うべきシロモノ。 中世の騎兵のように、いや其れとは桁違いのスピードを以って空間を駆け抜ける流星。 『馬鹿め、一撃で撃ち落してやれエスト!……どうした、おぃ! 早くしろ!』 それは偶然、いや彼女の意思の力による必然か。ほんの僅かに、だけど確実に動きの鈍るガンシンガー。 「……せ……ぃ、さ…せませんっ!」 うっすらと瞳に生気の戻ったエスト。だけど彼女は覚悟を決めた様に瞳を閉じ 「私……もろとも……」 閃光となって迫ってくるねここ対し遺言のように呟く。 「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 ずぶりという音がしそうな程、易々とガンシンガーの左右胸部上面に深く突き刺さるビームランサー。 それはガンシンガーの装甲部分のみを貫く様に…… 唯一の支えが外れ、剥がれ落ちる胸部装甲。同時に装甲の支えを失ったエストの身体もグラリと崩れ落ち始め……そこを両腕でキャッチ、そのままガンシンガー本体より引き抜いて一気に離脱するねここ。 ガンシンガーの胸部装甲はポンチョのように上から被せる方式、だから上面装甲を切り離せばそのまま引き抜けると思ったのだ。それは大成功。 そして急旋回し、抜け殻だけになったガンシンガーへ再び槍先を向ける。 『ねここ、フィニッシュ!』 「了解なのっ、ねここブースタァー!!!」 最大加速して正面から突っ込む! ガンシンガーからは無数のビームが放たれるものの、先ほどまでの正確無比な射撃とは無縁の素人以下の乱射程度だ。 激突寸前、自らを切り離し急速離脱するねここ。 先程までねここがいた場所には、背部に装着されていた旋牙が前方配置され唸りを上げて回転している! 「ゴー!!!」 『なんだとぉぉぉぉぉぉ!?だからドリルは取れと言ったのだぁぁぁ!!!』 ガンシンガーの各部に深く食い込み、抉り、そして突き抜けるシューティングスター。さしもの重装甲も全推力を背に受けた旋牙とビームランサーの破壊力には無力だった。 そして突き抜けたシューティングスターが旋回、そのまま天頂から最早残骸となったガンシンガーへと最後の突撃を掛ける。 修復される可能性がある限り完璧に破壊しなければいけない。 「……ごめんねっ!」 同時刻 ウイング内に仕込まれたGのキャノン、両腕のビームユニット、腰のヴェスバー。そして周囲のドラグーン。 全砲門を、既に戦闘力を無力化させ瀕死のタングラムへと向け、射撃体勢を取っていたGが咆哮する! 「この力……今こそ解放の時!」 二つの場所で同時に発生する閃光、それはこの戦いの終焉の鐘を鳴らすかのよう…… ~終局~ 「ホストコンピュータ、完全に乗っ取られました! 制御…不能!」 「電源落ちません! 主動力室ごと止めないと無理ですっ」 制御室にオペレーターたちの報告、いや悲鳴が響き渡る。無益と知りつつも全力で対処しようとする人々。 やがて、ドサリと背後で何かが崩れる音がする。 「そんな……馬鹿な……」 つい先程まで絶対の自信を漲らせ指揮を執り続けていた、彼らのリーダー格の男。 ソレが椅子に崩れ落ちたのだ。 「脱出しましょう教授! 乗っ取りによってこちらの場所が判明したとしても確保した足止め用の神姫どもがいます。ヤツらを盾にすれば十分時間は稼げます。今のうちに……」 傍らにいた若い男がそう助言する、だが…… 「残念でしたね、皆々様♪」 後背のドアが突然無礼に開き、逆光と共に一人の少女が現れる。 「な…貴様何処から!? いやそれ以前に警備は何をしている!?」 責任を擦り付けたいのだろうか、誰に向かってかも判らない怒号で叫ぶ男。 「何処って……此処のドアからに決まってますでしょう。それと、暴走神姫たちも残さず返して頂きましたよ」 挑発的な瞳で切り返す少女。 「そんな筈はあるか! 何百いたと思ってるんだ!? おい、やっちまぇ!」 傍らで立ち尽していた警備用のアムドライバーに命令、いや嗾ける。 彼らには対人攻撃防止プログラムはない、少女を有機物の塊にせんと一斉に飛び掛ってゆく。 「ふん、遅いね」 次の瞬間、間接部を綺麗に切り裂かれボトボトと床に落下していくアムドライバーたち。 少女の前に、天使と見紛うばかりの-翼-シルエットを持った武装神姫が浮遊していた。 「ありがとマルコ。助かるわ」 「何言ってるんです、わざわざ挑発なんかして。万が一だってあるですからね」 まるでピクニックにでも行くような調子で会話をする二人。 その隙に反対側のドアから脱出しようと、何人かの男が慌てふためきながらも駆け出す。 「全員動くな!」 発砲音の後、反対側のドアが倒れる。誰かがドアの接合部分をショットガンのような物で破壊したのだ。無論その誰かはすぐ判明する。 倒れたドアの向こうには今しがた拘束命令を飛ばしたアーンヴァル型の神姫と、数十体に及ぶヴァッフェバニー型が銃器を構えて殺到していた。 驚き倒れた男の一人が、混乱しつつも懐から拳銃を取り出し神姫を撃ち抜こうとする。 だがそれは無益だった。銃を突きつけた時点で銃身がドロドロに誘拐してしまったのだ。 それはアーンヴァルが放ったレーザーライフルの一撃。彼女らもまた対人用として殺傷力のある武装を装備していたのだ。 「それ以上抵抗すると……痛い目みますよ?」 敗北を悟る男たち。全員が力なくその場へと項垂れた。 「あれ……私何やってるんだっけ」 「ボクなんでこんな格好してるんだろ?」 ワクチンの効果は直ぐに現れ始めていた。 それまで暴走し、獲物を求め彷徨っていた神姫は次々に正気に戻っていく。 満身創痍の十兵衛とリン。 それを延々と包囲し続けていたホイホイ軍団も、乗っ取り成功により消滅。 二人の目の前でキラキラとポリゴン粒子に変換され消えてゆく。 「……勝利……か…」 「みたいです…ね。つ…つかれましたぁ」 へにょりと背中合わせでその場にへたり込む二人。でもその表情は達成感に満ち溢れていて。 「終わったみたいですね、よかった……二人は無事でしょうか」 気の抜けた表情で溜息混じりに呟く雪乃。 「大丈夫ですよ。貴方が信じてあげなくてどうするんです」 今度は自分の番だな、と雪乃を励ましにかかるココ。 「そうですね……」 「おーぃ、ユキにゃ~ん♪ ココちゃ~ぁん☆」 彼方から聞こえるねここの声。 二人が声の方を見合わせる。そこには夕日をバックにジェネシスのリボルケインに乗り彼女たちの下へやってくる、ねここ、ジェニー、エストの姿が。 「ねここーっ♪」 思わず手を振りながら飛び出してゆく雪乃。 「ユキにゃんっ☆」 嬉しさのあまり、リボルケインから思わず飛び降りダイブ! 「わ…っ、よ・・・っと。……ふぅ、危ないですよねここ」 「ユキにゃん、ナイスキャッチなの☆」 「……おかえりなさい、ねここ」 「うんっ、ただいまっ♪」 そこには何時もの、見る者全てを幸せな気持ちにさせてくれる、満面の笑みを溢すねここがいたのでした。 Fin~ 続く
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第壱幕 「朔-saku-」 佐鳴 武士(さなる たけし)、つまり俺が神姫の購入を決定したのは必然からだった 偶然出た街で、偶然当てた宝くじで、偶然手に入った纏まった金・・・ 偶然立ち寄ったホビーショップで、偶然していた神姫バトルを見た(余談だが、この時戦っていたのが「シルヴィア」という著名な神姫だと後で知った) 何事も無く帰途に着く・・・つもりだった。「何事も無い」と思っていた だが、既にこの時点で、俺の中に種が蒔かれたのだろう 親父も祖父も、アニメオタクや漫画マニアがそのまま大人になったような人達だった事から、土壌はしっかりあった 親父達の所有していた90年代や2000年代初頭の漫画やアニメやゲームに囲まれて育った世代だ。その後も肥料は、我ながら大量に収集した様に思う。 だから憧れが芽吹き、翌日には神姫の事で頭が一杯になっていた 原因が無ければ結果は無、種を蒔いても、土壌と肥料が悪ければ育たない 纏まった金とたまたま見た神姫バトルは偶然蒔かれた種だっただろうが・・・土壌と肥料を捨てずに持ち続けていた事は、何時か来る種を蒔く為の努力をしていた事に、この場合は相違無い それは最早「必然」と言って過言ではないだろう・・・要は、遅かれ早かれこうなっていただろうという事だ 自動ドアがのろのろと開く。何故こんなにのろいのか?俺の心は急いているのに つまりそれは俺の為にこのドアがある訳ではなく、誰に対しても平等な、機械的な反応だという事だ 「神姫」の肝はAIであると聞いた 神姫は、高性能なパソコンを搭載した玩具ではなく、身長15センチの人間だという話だ 俺にはそれはもうひとつピンと来ない表現だ。この自動ドアと違うってのは判るし、昔読んだ漫画でよく出て来たガジェットって事は判ってるが (AIなんて言われてもなぁ・・・よく判らんな?対話型ATMの凄いようなやつか?) 少なくとも「神姫が凄い玩具である」事は俺にだって判ったし、シンプルな事と格好良い事は俺にとって極めて善性だ だからその一点にのみ着目して、俺は数万円を散財するべく、普段滅多に立ち寄らない近場の家電量販店に足を運んだのだ 田舎住まいの上に土地勘が無い。加えて出不精だから、ここしか思いつかなかったのだ 看板が古臭くて、多分「ヤマシタ電器」とかそんな名前なのだろうが、文字が欠落して「ヤマシ 器」になってしまっていた (意外と中はまともだがな) やたら元気の良い店長が、近所の婆さんと世間話をしているのを尻目に店内を散策。さてMMSのコーナーは・・・と あった、結構大きくコーナーを取ってある様だ。何か同じ絵柄の箱がずらずらと山積みされている 「侍型MMS 紅緒」 いいねぇ俺好みだ。朱いパッケージが男心を程好く刺激するぜ なんでこんなに山積みなのかは・・・問わない方が良いのか?えらい安いし まぁ良いや 「すんませーん。コイツ貰えますかー?」 手近にあったやつをひとつ手に取り、店長の世間話を打ち切る 購入手続きを済ませた彩に手渡されたレシートにははっきりくっきりと 「サムライMMSベニモロ」 と打ち込まれていた …… …………… 『TYPE 紅緒 起動』 うっすらと目を開ける人形 生気の薄いマシンの瞳 「武装神姫」が起動する ゆっくり上体を起こし、周囲を見渡す『紅緒』 「登録者設定を行ってください」 おお・・・喋った・・・! と、感心している場合じゃない。マニュアルを読もうとしたが、文字が多くて面倒臭かったのでつい先に神姫を起動させてしまったのだ 「え~と・・・次はどうすりゃ良いんだ?」 「貴方が私のマスターか?」 どっかで聞いた様な台詞だな 「ちょっと待っててくれ、確かこのへんのページだった様な気がするんだが・・・」 がさがさページをめくる俺の足元に、つと近付いて来る神姫。をを・・・自分で歩いてる 「マスターの登録は声紋を取らせていただければ現状では充分です」 「あぁ・・・そうなの?面倒臭い設定とかしなくて良いのね。そりゃ助かるぜ」 振り向いた先に立っている姿・・・んぁ?太股がなんかおかしいぞ 「どうかされましたか?」 「お前・・・その足どうしたんだ?」 小さな声を上げて自分の左太股に目を落とす・・・結構際どいデザインだな、このデフォルトアンダースーツは 左の内腿から尻側にかけて、彼女(?)には痣の様なものがあった。綺麗な皮膚に薄く墨を流した様な・・・見様によっては花霞に見えなくも無い 「・・・うわ・・・どうしようこれ・・・欠品かこれ・・・その・・・」 AIとは人口知能であり、神姫とは身長15センチの人間である その事の本当の意味の一端を、俺はその時の「彼女」の表情の変化、狼狽から読み取った 羞恥、怒り、そして不安・・・ 「・・・返品・・・ですか・・・?」 マスターとして神姫に正式に登録されるには名前をつけてやる必要があるのか・・・成程な。俺はマニュアル本を閉じた 「俺の名前は佐鳴 武士。で、お前の名前は華墨(かすみ)だ・・・問題、あるか?」 泣きそうだった「彼女」は、一瞬びっくりした顔を見せたが、次の瞬間には、至高の微笑を浮かべてくれた 「はい、マスター。私は・・・華墨です・・・!」 TOPへ 次へ
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第2幕「はるか遠くの始まり」 神姫には三つの心がある。そしてその心とは別に頭脳がある。心と頭脳を繋ぐのは、それらに情報を与える肉体である。 神姫にとってボディー、コアパーツ、そして三つのCSCは不可分であり、その三種のユニットが分断される事は機能停止を伴う。 そして一度停止に至った神姫は記憶、経験等が全てリセットされ、再びその個性を取り戻す事は無い。 たとえ全て同じパーツを使用したとしても。 ――心を司るCSC。 過去に記録を宿していながらも真っ白になったその心を、新たな肉体に埋め込まれた神姫は一体何を思うのだろうか。 結城セツナの新たな武装神姫、焔はそういう境遇にいる神姫である。 焔がセツナの元で目を覚ましてから約3週間が過ぎた。 例の事件の際にセツナを救ったとある少女からの連絡を受け、晴れてセツナは自由を再び満喫できるようになっていた。 久しぶりに登校した学校では定期考査が間近に迫っていたが、しかしそれでもセツナにとってそれはハンデにはならないらしい。 県内でもランクの高い私立の女子高においても、常に十位以内をキープする才女なのだから、今更試験のための勉強などしなくても日ごろの行いでこなせてしまう能力があるのだ。 そして現在、学校は試験休みに突入している。 その休みを利用し、焔とセツナはバトルを繰り返していた。 それこそ休む間を惜しんで。 原因は焔が言った我侭だった。 「この休みと冬期休暇の内に、私をセカンドまで押し上げて欲しいのです」 「何いきなり無茶な事を…… 焔、あなたはまだ起動したばかりでろくに経験も積んでいないのよ? そんな神姫が、特別な何かが無い限りセカンドランカーになれるわけ無いじゃない」 セツナは呆れたようにそれに答える。 確かに焔の発言はどう考えても無理があり、いくらオーナーに能力があろうとも経験のまるで無い神姫が短期間でそれを叶えるのは無茶な話だ。 それに対し焔は次のような提案をする。 「私に、海神の戦闘データを移植してください」 「ちょ……ちょっと待って。あなたは海神とは違うのよ。いくらあの娘の戦闘データを移植しても、あなたが効率よく戦えるわけじゃないわ」 確かに焔には海神と同じCSCが同じ配列で収められている。 しかしコアパーツとボディーが別物なのだから、その性質は海神とはまるで違う。 「そんなあなたが海神のデータを移植した所で、そのデータは邪魔になるだけかもしれないのよ? それに私は……」 「そんなことは承知です。でも……それでもワタシはそのデータが欲しいのです」 提案は何時しか懇願に代わっていた。 「ご主人、お願いします。ワタシはどうしてもそのデータを使い、セカンドランカーになりたいのです!」 焔にとって、それはどうしてもやらなくてはならない事だったからだ。 セカンドランカーになる、と言うのはあくまで言い訳に過ぎなかった。そう言えば、海神のデータを移植する十分な理由になると思ったのだ。 ならばなぜそこまで海神のデータに拘るのだろう。 「……ねぇ、なぜそんなにセカンドにこだわるの? そして何でそんなにあの娘のデータを欲しがるの?」 「――――」 焔はなにも言わない。 言いはしないが、その擬似的に創造された心で、思うことが確かにあった。 海神ⅡY.E.N.Nと言う名を冠するならば、ランクは兎も角戦闘データだけは海神のものを引き継ぎたい。 それは多分己が主人に対する意地と、そして後ろめたさから来るものだろう。 自分は海神という神姫の代替品だと言う思いが、心の最奥にひっそりと、だが確実に存在している。 ご主人が私のその役目を求めているなら、私はそれ以上の存在になろう。という意地もある。 なんにしても、まずは海神が居た位置に並ばなくてはならない。 そしてただ並ぶだけではなく、海神を内包し、更にそれを越えて己を表さなくては意味が無い。 ワタシが存在する、意味が無い。 チクリと胸が痛んだ。 「ふぅー…… 仕方、無いわね」 セツナは嘆息しうなだれながら小さく答えた。 そうしてセツナは、焔にどんな思惑があるのか聞けないままに、それでもその願いを叶えるべく行動を始める。 こんなやり方は、きっと正しくは無いのだろう。 自分が何を思っているかも告げず、ただ我を通すだけのやり方も。 それを突き通すために誰かの経験を横取りするようなやり方も。 それでも―― それでも海神ⅡY.E.N.Nという名でありながら、焔という名の一つの神姫であるために…… 「焔、次もいける?」 「大丈夫ですご主人。ワタシが望んだ事なんですから」 焔のその言葉に、セツナの表情がかすかに曇る。が、焔はその変化に気付けない。 セツナはすぐに表情を変える。 「それじゃ、頑張って、ね」 そのセツナの笑顔を見て、胸の奥にわずかな痛みを感じながら―― 「はい!」 焔は精一杯の笑顔で答えた。 スタートラインすら、まだはるかに遠くとも。 トップ / 戻る / 続く
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無頼16「アオゾラ町神姫センターのご案内」 武装神姫とオーナーが、その実力を試す場所。 または、新しい出会いが待っている場所。 それが神姫センターです。 今回は数多くある神姫センターの一つ、アオゾラ町の神姫センターのご紹介していきましょう。 えっ? 私は誰ですかって? 申し遅れました。私はメンテナンスショップ所属MMS"メィーカー"と申します。 メイとお呼びください。 それでは、始めましょう。 どこにでもある普通の町、それがアオゾラ町です。 そこの駅前に神姫センターがあります。 建物は大きく、3階建てとなっています。 店内に入ると、暖かい日差しがお迎えしてくれます。 1階から3階までを繋げた大ホールです。 夏場はちょっと暑いのが難点です。 1階には神姫ショップとMMS関連店、カフェテラスが入っております。 品揃えは様々で、オリジナル商品も充実しています。 最近は物騒な事件が多いので、警備体制は厳重となっております。 各対戦筺体は2階にございます。 以前はバトルロンドのみでしたが、この前リアルバトル用の大型筺体を導入致しました。 でもそれが原因でショップに来るお客さまが増えてしまい、私としては複雑な心境です。 私の勤め先であるメンテナンスショップも、2階にあります。緊急時にすぐ対応するためです。 3階には事務所や医務室のほか、大きなイベントホールがあります。 小さな映画館くらいの規模があります。 紹介はこれくらいにして、私を通して神姫センターの一日を見てみましょう。 AM7:00 「んっ……ふぅあぁぁぁあっ…」 ちょっとだらしない声を出してしまいました。 私は非番だったので、ずっと寝ていました。 センターの開店は9時からなので、充分間に合う時間です。 AM8:30 せっせと開店準備を急いでいます。 今日は私がカウンターに立つシフトですので、ちょっと慌てています。 専用器具…オールグリーン、身体機能…異状なし。 これで完璧です! 「メイ、頭がひどいわよ」 「えっ? ああっ!?」 お恥ずかしいながら、私は寝ぞうが悪いです。 そのせいで髪の毛がくしゃくしゃになっていました。 手櫛で梳かして、今度こそ完璧です。 AM10:21 早くもけが人多数、ひどい話です。 腕が片方吹き飛んだストラーフがやってきました。 なんでも「高馬力タイプと戦ってて武装もろとも引きちぎられた」そうです。 「いやぁ、いつもいつも世話になっちゃってゴメンね」 「しょうがないですよ。"戦いたい"と言うのは神姫の本能みたいなものなんですから」 とは言っても、これは酷いです。破損箇所が中枢部付近までに及んでいます。 今の患者さんは、胸部付近の外装をすべて取り外して修理を行っています。 それでどのくらい酷いかを理解してもらいたいです。 「これでよし。腕を動かしてみてください」 「よっと…」 関節部のアクチュエータやケーブルが、音を立てずに動き出します。 稼働チェック、問題なし…と。 「問題なし、あと5分待って下さいね」 これが、私たちの通常業務です。 AM11:12 どうゆう訳かは判りませんが、長瀬さんに落ち着きがありません。 「どうなされましたか?」 「いや、ただ単にそわそわしてるだけさ」 絶対に嘘です。 その証拠にラスターさんがいません。 「"また"ですか?」 「…そうだ。"また"だ」 長瀬さんという人物は、他の人は騙せても神姫をだますのが苦手のようです。 だからセンター職員では私だけが知っている、長瀬さんの"裏"を。 「すまんな。いらん心配をさせて」 「このくらい解らなくて、医者が勤まるものですか」 PM1:09 ラスターさんが帰ってきました。 左の主翼が吹き飛んだ状態で 「不覚にも…逃げられてしまいました」 「そんな事はどうでもいい。さっさと翼を分離(パージ)しろ」 言われてラスターさんは、気を落とした顔で翼を切り離しました。 「酷いですね、高火力タイプにでもやられたんですか?」 「ああ。なかなか手ごわい相手なんだ。今回は」 ふと、黙っていたジュラさんが口を開きました。 「せっかくだから吹き飛んだ方の翼を赤くしようよ」 それはいつのゲームの話ですか? 「やっぱ Camoooooooon!! は付きものよね」 「止めてくださいジュラ。…今度、撃ち落としますよ?」 「うへっ、PJだけは勘弁!」 PM3:53 彩聞さんがやってきました。 「こんちわ、メイ」 「こんにちは」 ヒカルさんといつも通りのやり取りをしていると、彩聞さんが長瀬さんと何か話しています。 何か改造の話みたいですが…。 「ふむ…。なら、エルゴに行ってみるかい?」 「エルゴ?」 どうやら、彩聞さんは今度ホビーショップ・エルゴに行かれるようですね。 何故エルゴを知ってるかって? "休暇"の時に連れて行ってもらってるのです、長瀬さんに。 このショップ所属のMMSは、誰かしら職員がオーナーとなってます。 今のところ、長瀬さん受け持ちのMMS(こ)は私だけです。 だから、「こう言う事」も知っています。 PM4:33 急患が運ばれてきました。 下半身が粉々になっており、あちこちに亀裂が生じています。 店先で乗用車に轢かれたとのことです。 「メィーカー! お前が執刀しろ」 「わかりました」 言い忘れていましたが、MMSの直接的な修理は私たちの仕事です。 人間の職員はサポートに回っています。 "モチはモチ屋"、という事でしょうか。 「非常事態ですので、がまんしてくださいね」 そう言って、胸部外装を補助アームでむりやり剥がしました。 防音処理された室内に絶叫が響き渡りますが、もう慣れっこです。 むき出しになった動力部に手早くケーブルを接続し、動力を確保。これでひとまず安心です。 「ひぐっ…えぐっ…わたし死んじゃうの…?」 「下半身が無くなったくらいで取り乱さないでください。今は大丈夫ですから」 不安をかきたてる言葉ですが、こういうのは正しく現状を言うのにかぎります。 ちぎれて使い物にならなくなった配線や導管をはずしていきます。 それと同時に、新しい下半身も準備します。 今の私はジェネシスのように、4つの補助アームが背中に装着されています。 私のような専門職はコストがかかるので、そうそう数を増やせるものではありません。 だからなるべく一人で何でもできるような設計が要求される訳です。 ちなみにこのセンターには私を含め、この規模の修理を行えるMMSはわずか4人しかいません。 世の中お金が大事ですねぇ…。 …… PM5:13 「ふぅ…」 術式終わり…。 ボディの最終調整は他の人や職員に任せて、私は一休みです。 緊急を要する状態だったのでそのまま修理を始めてしまい、私の体も服もオイルまみれです。 「んっ…ふぅ…」 もう…汚れた服はさっさと脱ぎすてて、シャワーでも浴びちゃいましょうか。 関係ないですけど、私ってけっこうスタイルいいんですよ? 「相変わらずいい体してるなァ。いや、純粋に」 「うみゃっ!?」 後ろを振り返ると、長瀬さんがこちらを見下ろしていました。もう…この人は…。 「MMSばかり見てるから、彼女が出来ないんですよ?」 「そう言うな。…なんなら、お前が彼女になってくれるかい?」 「ふふ。ラスターさんにの耳に入ったら、またフルボッコにされますよ?」 まあ、こんな所も長瀬さんらしいんですけどね。 PM7:59 今日はバッテリーの消費量がハンパないですね…、バッテリーの寿命かしら。 気がどこか遠くにいきそうです…ふぁぁ…。 「メイ、どうしたの?」 「いや、なんでもないです。急速充電してきますからカウンターの方お願いします」 そう言って、裏の職員用スペースに走りました。 「メイったら最近燃費悪いわね…、バッテリーが原因かなぁ」 PM8:24 あれ…おかしいな。 充電したのにゲージが低い…。 「まさか、漏電してる!?」 その証拠に髪が静電気で逆立ってます、これでは精密機器に触れません!! 「メイ、やっぱりバッテリーが…」 「そうみたい…、でも今は誰も居ないし…」 嗚呼不覚です! こんな事に気付かないなんてッ!! 「まったく…、こんな事になってるだろうと思ったよ」 唐突に長瀬さんが入ってきました。食事に行ってたのでは? 「お前が着替えていた時、時季外れの静電気が起きたのを見たんでな。気になって戻ってきた」 あいかわらず凄い観察眼ですね。 「おかげで夕食食う暇がありゃしない。…ほら、処置室に行くぞ。バッテリー交換してやる」 「え、でもカウンターが…」 「接客くらいラスターとジュラで出来る、それよりも高価なお前が故障したら修理費が大変だからな」 本音にまぎれて、どこか優しさを感じる言葉です。 少なくとも、私はそう感じます。 「ラスター、ジュラ。頼んだぞ」 「オッケー祁音」 「ほら、こう言う時はキャプテン…マスターに甘えるべきですよ」 ラスターさんがどこかもの足りないような表情をしましたが、それは気のせいではないでしょう。 ……… …… … 結局、そのまま私はメンテナンスモードのまま朝を迎えてしまいました。 センターの閉店は午後10時となっていますが、メンテナンスショップは急を要する神姫(こ)たちの為に24時間体制で開いています。 今回はトラブルにつき最後まで紹介できなくて申し訳ありません…。 でもこれをきっかけに、神姫のオーナーがより増える事を心より願っています。 命は人も神姫も同じ、尊いものですから。 それでは、またお会いしましょう。 流れ流れて神姫無頼に戻る トップページ
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武装神姫達のソード・ワールド2.0【第1-2話】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm17944941 ヴァル「あーるーはれたー、ひーるーさがりー、いーちーばーへ…」 「ドナドナ」の歌詞の冒頭。反戦歌という説もあり、少なくとも明るい歌ではない。
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2.目覚めは猫の鳴き声で 「どれどれ……えーっと、これがCSCってやつかな? ずいぶん小さいな……」 家に着いた僕は、早速神姫のセットアップを始めた。 箱から出てきたのは全長15センチくらいの人形だ。 細かい造形までよく出来ていて、今にも動き出しそうだ……って、それは当たり前か。実際に動くんだし。 米粒よりも小さなCSC――正式名称をコアセットアップチップという――をピンセットでつまみ、素体と呼ばれるボディ部分の胸元にある、小さな三つの穴に埋め込んでいく。 このCSCを埋め込むことで神姫は起動するのだが、その組み合わせによって神姫の基礎人格や得意分野、嗜好などが方向付けられるという。 CSCの種類自体いくつもあって、それぞれに特徴があるらしいのだが、僕の手元には若山さんから譲ってもらったCSCがちょうど三つあるだけなので、選択の余地はない。 とはいえ同じCSCの組み合わせでも神姫の種類によってはその性格の現れ方が異なるらしいし、最終的に最も強く影響するのは起動後の生活なのだとか。 「どんな性格でもきっと可愛いと思うようになるから、あんまり気にしなくてもいいよ~」 というのが、若山さんが僕に語った結論だった。 その言葉に従い、あまり細かいことは考えずに作業を進めていく。 考えることといえば、この神姫は一体どんな性格で目覚めるのだろうか、ということ……。 「にゃー」 作業をしている僕の足元に、一匹の猫が不満げな様子でまとわりついてくる。 飼い猫のキャロルだ。 そういえば今日はまだご飯を用意してやっていなかったっけ。 「あーごめんごめん。もうちょっと待っててくれな、もうすぐ終わるから」 すまなさそうに答えると、とりあえず納得したのか、キャロルはまとわりつくのをやめてちょこんと座り込む。 「どうした? 新しい家族が気になるのか?」 首をかしげて神姫を見つめるキャロルに、僕は思わずそんな言葉をかけていた。 自分で言っておきながら、不思議な感覚にとらわれる。 この小さな人形が動き出し、僕と一緒に過ごしていく……ほんの数分後に現実になるであろうその光景を、僕は未だ想像すら出来ずにいた。 「これで最後……っと」 三つ目のCSCを埋め込んだその時、にわかに電話のベルが鳴り出した。 タイミングが悪いにもほどがある。 無視してしまおうかとも考えたが、仕事絡みだと後々面倒だ。 僕は渋々立ち上がり、キッチン横に備え付けられた受話器を取る。 「はい、狩野です」 『ああ、暁人? 最近全然連絡ないから心配してたけど、元気でやってる?』 電話口から聞こえてきたのは、間違いようもない母親の声だった。 僕が仕事を始めて一人暮らしをするようになってからというもの、こうして何かにつけて電話をかけてくる。 別に嫌ではないのだが、我が母親ながら少し過保護に過ぎるのではないだろうか。 一人息子を心配する気持ちはわからないでもないが、もう少し僕のことを信用してほしい、とは毎度思うことである。 「ああ、母さんか。うん、特に問題なくやってるよ。あーごめん、今ちょっと取り込み中なんだ、またかけるから」 『そんなこと言って、貴方自分から連絡してきたことほとんどないじゃないの』 やばい、地雷を踏んでしまったか……こうなるとうちの母親は話が長い。 説教というわけではなく、脱線を繰り返して話がとんでもない方向へ進んでいってしまうのだ。 それは声のトーンでわかる。 普段なら適当な相槌を返しながら聞き流すのだが、さすがに今はそうもいかない。 「あーほんとごめん、今はどうしても時間がないんだ。ちゃんと連絡するから、じゃっ!」 『あ、こら、あきひ……』 少々強引に電話を切り、受話器に向けて手を合わせる。 ごめん、ホントに今度ちゃんと連絡するからさ。 えーっと……そうだ、神姫は起動したらすぐにマスター登録というのをしなければならないんだっけ。 このマスター登録によって神姫は特定の人間をマスター……つまり自分の主人として認識し、ここにある種の契約が産まれる。 こう言うと伝承の中にある召喚の儀式のようだが、イメージとしてはあながち間違いでもないのかもしれない。 「……そんなこと考え込んでる場合じゃないか」 誰にでもなく呟き、急いで部屋に……と、その時、聞きなれない声のようなものが僕の耳に入ってきた。 ともすれば聞き逃してしまいそうなくらい小さなものだったが、何故かそれが耳について仕方ない。 「……ぅ」 何だろう、確かに声のように聞こえる。 テレビはつけていないし、割と防音がしっかりしている部屋なのでお隣さんということはないと思う。 外からの音というのも、同じ理由で可能性は低い。 聴覚を集中させて、音源を探る。 「……ぁぅー」 今度ははっきりと聞こえた。 間違いなく人の声だ。そしてその発信源は……。 「……誰か~、た~す~け~て~」 ……僕の、部屋? 「……しまったあ!」 キャロルが興味津々な様子で神姫を見つめていたのを思い出すと同時に、僕はあわてて駆け出し、部屋のドアを乱暴に開けた。 そして僕の視界に飛び込んできたのは……。 「にゃー」 「あうあうー、離してくださいってば~」 我が家の愛猫に捕食されそうになりながら情けない声をあげている、小さな女の子だった。 「うう、ぐすっ……ひっく」 さて、困った。 神姫を押さえ込んでいた(当人は多分じゃれあっていたつもりなのだと思うが)キャロルを急いでひっぺがし、とりあえず夕飯を与える。 今は好物のミシマ水産のツナ缶を一心不乱に食していらっしゃる。 こちらのことなど眼中にない様子。 そしてようやく神姫と向かいあったまではいいのだが、肝心の神姫が先ほどから泣いてばかりなのだ。 キャロルには子猫の頃から僕の指で甘噛みの練習をさせているので、痛みとか外傷はないと思うのだが……よほど怖かったのだろうか。 「あーその、なんだ……ごめん、謝るから、とりあえず泣き止んでくれないかな?」 そう言葉をかけるも効果はなし。 参った、僕はこういう状況はとても苦手なのだ。 女性経験が皆無といっていい僕にとって、女性に泣かれるということは、対処のしようがない天災のようなものである……経験があったとして、それが神姫に通用するかは疑問だけど。 とりあえず言葉で彼女をなだめることは早々に諦めるとする。 となれば、残るは実力行使だ。 彼女を怖がらせないように、そっと手を伸ばす。 俯いてえぐえぐやっている彼女が気付く様子はない。 ぴと。 僕の人差し指が彼女の髪に触れる。 そしてゆっくりと撫でるように、さすってみた。 人間同士の最も原始的なコミュニケーション、スキンシップ。 その基本中の基本である『頭を撫でる』という行為を実践したのだ。 僕が頭を撫でると同時に、彼女の動きがぴたりと止まる。 ぐすぐすと泣いていた声も止まったので、僕はひとまず安心して、そのまま頭を撫で続けた。 指先に、微かな温もりを感じる。 それが機械特有の熱であると頭では理解しながらも、その温かみは人が持つそれと同等のものに感じられて仕方がなかった。 しばらくされるがままになっていた彼女が、ゆっくりと顔を上げる。 まだ目元に涙が残っているようだが、その顔に怯えや恐怖はない……というか、なんだかぽーっとしているようだけど。 「ん、少しは落ち着いた?」 「ふぁー……」 僕の辞書には、肯定にも否定にもそんな返事はない。 それ以上どうすることも出来ず、僕はまた困ってしまった。 彼女の金髪はさらさらしてて気持ちいいし、しばらくこのままでもいいんだけど……。 いつの間にかぺたんと座り込み、すっかり脱力している彼女の姿に、僕ははたとあることに考えつく。 (もしかして、神姫って頭撫でられると動けなくなるとか……?) そんな馬鹿な。 人間とコミュニケーションをとれるのがウリだってのに、頭撫でたら動けないなんて本末転倒にもほどがある。 でも昔、しっぽを掴まれると力が抜けるアニメキャラとかもいたしなあ……って、それはまた違う気もするけど。 とにかく、もし本当にそうだとしたら困るので、僕は一度彼女から指を離した。 彼女は相変わらずぽーっとしていて、その様子に変化はない。 「……そうだよなあ、そんな矛盾あるわけな」 「ふあっ、わわーーーーーーーーっ!?」 突然彼女が大きな声をあげたので、僕はびっくりしてひっくり返ってしまった。 十五センチサイズから発せられた音量とは思えなかった。 「な、何、どうしたの!?」 「ごごごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめあいたーっ!?」 いきなりすごい勢いでぺこぺこと頭を下げ、謝りだす。 そして勢いがつきすぎたのか、床にモロに頭を打ち付けていた……かなり痛そうだけど、大丈夫かな。 「うー、くらくらするよお」 涙を浮かべながら、両手でおでこを押さえている。 よっぽど痛かったんだなあ……じゃなくて、とりあえず落ち着かせないと。 「あー……君、とりあえず僕の目を見てくれるかな?」 「はは、はいいっ!」 僕がそう言うと、彼女は軍人も驚くくらいびしーっとまっすぐに立ち、僕の目を見つめた。 まだ冷静とは言えなさそうけど、話は出来そうだ。 「えっと、君は武装神姫。自分のことはわかるかな?」 まずは彼女の状態を確かめないといけない。 いきなり混乱していたみたいだし……僕のせいなんだけど。 「あ、はいっ。私は武装神姫、天使型MMSアーンヴァル。コアユニットコードAGL―ARNVAL。個体コードTT―45986、素体構成材質は……」 「ストップストップ、そこまででいいよ。ありがとう」 彼女の話を途中で遮る。 構成材質とか興味がない話ではないが、そんなのは後で調べればいいことだし、今の目的はそこじゃない。 「よろしいのですか? まだ途中ですが……」 「いいのいいの、いずれ詳しく教えてもらうから。それより先に、マスター登録ってやつをしないといけないんじゃないのかい?」 『マスター登録』という言葉に、彼女はようやく落ち着きを取り戻したらしい。 「そ、そうですね」なんて言いながら、ふーっと一つ深呼吸……なんか、全然ロボットっぽくないな。 若山さんが怒ってた気持ちが、改めてわかった気がする。 「では、マスター登録を開始します。音声解析、準備……完了。貴方が私のマスターですか?」 先程までとは違う、機械的な音声。 合成音というわけではないが、やはりこういうところは機械なのだと再認識する。 そして僕が返事をしようとした、まさにその時……。 「にゃーん」 いつの間にか食事を終えていたキャロルが僕の変わりに返事をした。 「お、おいっ」 もちろん僕は慌てる。 猫が神姫のマスターだなんてことになったら一大事だ。 む、いやしかしそれはそれで興味深……いやいやいや。 そんなことを考えている間にも、彼女は言葉を続ける。 「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」 どうやら猫の声ではマスター登録は出来ないらしい。 考えてみれば当たり前なのだが。 それに、マスター登録には自分の名前を告げることが必須だったはず。 さすがに「にゃーん」ではそこでひっかかるだろう。 僕は胸を撫で下ろし、再度マスター登録に臨む。 「貴方が私のマスターですか?」 「そうだよ、僕の名前は……」 「にゃー」 って、おい! 「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」 この手の登録は三回失敗すると一時的にシャットダウンされるって相場が決まってる。 今度こそ邪魔されるわけにはいかない。 僕はキャロルの両脇をむんずと抱え上げ、クローゼットの中に押し込んで扉を閉めた。 「にゃー!」 なんだか怒っているようだが仕方ない。 ごめんよキャロル、少しだけ我慢してておくれ。 「さて……」 これで安心だ。 僕も一度深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。 「貴方が、私のマスターですか?」 三度目の試行。 ゆっくりと、確認するように聞こえたのは気のせいだろうか? 「そうだよ、僕が君のマスターだ。僕の名前は狩野暁人」 「解析開始……完了。音声信号を保存。マスター名、狩野暁人。マスター登録に成功しました」 登録完了、これで一安心だ。 彼女の声質が、それまでの機械的なものから、本来彼女が持っているものへと変わる。 「えと、これからよろしくお願いしますね、マスター」 鈴を転がすような、というのはこんな声のことを言うのだろう。 ちょっと舌足らずな喋り方がまた可愛らしい。 「うーん、マスターっていうのは堅苦しいな。僕のことは暁人でいいよ」 彼女はきょとんとしている。 名前で呼ぶこともマスターと呼ぶことも、彼女にとってあまり違いはないのだろうか。 「えと……じゃあ、暁人さん」 「うんうん、よく出来ました」 ご褒美……というわけでもないが、人差し指で彼女の頭をぽふぽふと撫でてやる。 そうするとまた、彼女は脱力してぽーっとなってしまった。 「ふぁー……」 「あ、ごめんごめんっ」 僕は慌てて指を引っ込める。 こんなこと説明書には書いてなかったんだけど……腑に落ちないが仕方ないか。 「神姫って頭撫でられると動けなくなっちゃうんだね、僕も気をつけないと」 「……え?」 彼女が「何言ってるんですか?」という目で僕を見る。 いや、そんな反応されても……。 「頭撫でられると動けなくなるんじゃないの? 事実、君はさっきからそうなってるし」 そう言いながら三度人差し指で頭を撫でると、やっぱり同じ反応。 でも、なんだか赤くなってもじもじしているように見える。 「えと、えーと、あのですね……」 何か言いたそうなのでとりあえず指を離し、話がしやすいように彼女と目線の高さを合わせた。 彼女はほうっと息を吐くと、 「先に結論から言いますと、頭を撫でられても神姫が動作停止することはないです」 と、はっきりした声で言う。 そりゃそうだよなあ、やっぱり。 頭も撫でられないで何がコミュニケーションか、などと思う。 しかし、そうすると先程からの彼女の脱力っぷりが気になるわけで。 「でも、君は頭を撫でられると様子がおかしくなるよね? もしかして、どこかにトラブルでもあるのかな」 いかに心を持つとはいえ……いや、逆に考えれば、それだけ複雑なプログラムや精巧なボディで出来ているのだ。 精密機械の常で、どこかにトラブルが潜んでいたとしてもおかしなことではない。 そんな僕の考えをよそに、彼女から返ってきた答えは、僕の予想の斜め上を行くものだった。 「いや、そのですね、何と言いますか……その、頭を撫でられると、あったかくて気持ちよくて、ぽーっとなってしまうようで……」 顔を真っ赤にして、指をぐにぐにしながら答える彼女。 えーっと、それはつまりプログラムのバグやハードウェアの故障とかじゃなくて、もっと原始的な感情に基づくもの……。 「あー……それはつまり、頭を撫でられるのが好きってこと?」 恥ずかしそうに僕を見上げながら、こくこくと頷く。 なるほど、頭を撫でると動けなくなるのは武装神姫全般の仕様とかじゃなくて、彼女特有の個性ってことか。 しかしまあ、そんな個性もありなんだろうか? いずれにせよ、彼女に悪影響を与えるものではないとわかったので安心だ。 遠慮なく(というのも妙な言い方だが)頭を撫でさせてもらうことにする。 「はふ~……」 そして脱力。 先程よりもいささか安心しているのか、自分から僕の指に頭をすりつけたりしている。 うーん、なんか小動物みたいで可愛いな……と、そこで僕は大事なことを思い出し、彼女を撫でる指を離した。 名残惜しそうに彼女は首を伸ばし、頭を僕に向けて差し出してくる。 くう、可愛いぞ……このまま戯れていたいけど、そうもいかない。 「君に名前をつけてあげないといけないね」 いつまでも『君』とか『彼女』のままじゃ可哀想だ。 うんうん、と僕は一人で頷き、考えを巡らせる。 さて、どんな名前がいいだろうか。 「天使型、天使……エンジェル、アンジュ、セラフ……ダメだな、安直すぎる」 せっかくだから彼女に似合う、最高の名前をつけてあげたい。 彼女は色白でかつ金色に輝く髪の持ち主だ。 和風な名前は最初から選択肢の外にある。 洋風の名前でも、安直なのはダメだ。 ちゃんと意味を持った、彼女だけの名前にしてあげないと……。 「あのー、暁人さん?」 がりがり。 「彼女のイメージから連想する言葉……天使からは少し離れてみよう。白、金、乙女……」 『暁人はそういうトコ無駄にこだわる癖があるよな』とは大地の弁だ。 大地に限らず、学生時代から周囲の友人の評価は概ね変わっていない。 別にいいのだ、自覚もあるし。 興味のないことには悲しいくらい無関心、その代わりこだわるところは徹底的にこだわる、それが狩野暁人という人間である。 「あのあの、暁人さんってば」 がりがりがり。 「なかなかいいのが思い浮かばないな……そもそも彼女のイメージっていうのがまだ漠然としすぎてるんだ」 まだ出会ってほんの三十分である。 僕が彼女について知っているのは、外見的特徴と「頭を撫でられるのが好きだ」ということくらいのものだ。 しかしまあ、当たり前のことだが名前というのはそんな状況でつけるものである。 キャロルの時はどうしたんだっけ。 「ええと、あの時は確か……」 「あーきーひーとーさーん!」 「うわっ」 「きゃあっ」 耳元で大声がしたため、僕は再び後ろにひっくり返ってしまう。 そして同時に悲鳴。 いつの間にか僕の肩に登っていた彼女が、僕がひっくり返ったために空中に投げ出された……なんてのは後でわかることで、空中から落下してくる小さな影の下に、夢中で仰向けのままの体を滑り込ませた。 がつんっ! 「あだっ!」 目の前に星が飛び、直後視界が暗転しかける。 なりふり構わずに滑り込んだため、勢いで頭を何かにぶつけたらしい。 かなり痛い、もしかしたら少し馬鹿になってしまっただろうか? 「いやそれよりもだ」 くだらない考えに一人ツッコミをいれ、彼女の安否を確認する。 その姿は……いた。 僕の胸の上にダイブするような形で乗っている。 目立った外傷はない。 「おーい、大丈夫?」 声をかけると、うにゅーなんて唸りながら起き上がり、ちょこんと僕の胸の上に座り込む。 「はふ、びっくりしましたよ~……って、暁人さん頭! 大丈夫ですか!?」 どうやら僕が頭をぶつけたことに気がついたらしい。 泣きそうな顔で僕の目の前に寄ってくる……近いよ、すごく。 そして「ごめんなさい」を連呼。 「あー、大丈夫だから、そんなに謝らなくていいって」 「でもでもっ、私のせいで暁人さんが、暁人さんが~はうっ」 気にしないでいいと言っているのに彼女は半泣きのままだ。 拉致があかないので頭を撫でてやると、予想通り大人しくなる。 なんというか、困った時はとりあえず撫でておくのがよさそうだ。 しばらく撫でていると、彼女はすっかりほわほわになってしまった。 頃合と見て声をかける。 「それより、いきなり大きな声出してどうしたの?」 すると、彼女ははっと我に返ってぽんと手を打つ。 そして恐る恐る、僕の頭の先……クローゼットを指差した。 「えとですね、なんかさっきからがりがりがりって音がしてるんですけど……」 がりがりがりがりがり。 そして、怒りの雄叫び。 「うにゃーっ!」 「あちゃあ……忘れてた」 「悪かったって、機嫌直してくれよ~」 僕が手を合わせて許しを請うているのは、我が家の猫姫キャロル。 先程の仕打ちで大層機嫌を損ねたらしく、目を合わせようともしない。 別にキャロルの機嫌が悪いからといって僕に実害があるわけでもないのだが、そこはやはり同じ屋根の下で暮らすもの同士。 良好な関係を維持しておくべきだと思うのである……猫好きの僕としては、単に無視されるのが寂しいからというのもあるが。 「明日はミシマ水産の最高級のツナ缶買ってきてやるから、な?」 ミシマ水産のツナ缶といえば、食用ツナ缶の中でも割と高級な部類に属するものである。 それまで普通に猫用のツナ缶を食べていたキャロルだったが、ある日僕が食べていたミシマ水産のツナ缶を分けてあげたところ、それ以来他のツナ缶には目もくれないようになってしまったのだ。 そしてその最高級品ともなると、普通に人間用の惣菜弁当、それもそれなりのものが買えるくらいの値段になる……正直、財布にはあまり優しくない。 そんな僕の切実な願いを聞いているのかいないのか、キャロルは悠々と僕の脇をすり抜けていく。 その瞳が見ているものは……少し離れたところで成り行きを見守っていた、神姫の彼女だ。 「はわっ」 キャロルが自分を見ているのに気付いたか、ぴしっと石のように固まる彼女。 どうやら最初に受けた衝撃は相当のものだったらしい……って、当たり前か。 起動直後に猫に組み敷かれた神姫なんて、そうそういないだろう。 「心配しなくても大丈夫だよ、傷つけたり、痛くしたりすることはないからさ」 そこら辺はきちんと躾けてある。 ついつい手を出してしまうのは猫の本能だから仕方ないが、力加減は出来るはずだ。 びくびくしている彼女の前にちょこんと座り、じっと見つめるキャロル。 大丈夫だと思うんだけど、あまり怖がらせるのも悪いよな……そう思って助けに入ろうとしたその時、ぺろり、とキャロルが彼女の頬をなめた。 「ひゃっ!?」 予想外の刺激に、びくーっと傍目にもわかるほど硬直する彼女。 それにも構わずキャロルのスキンシップは続く。 鼻や頭をすり寄せてみたり、くんくんと匂いをかいでみたり……やがて彼女も慣れてきたのか、おずおずとキャロルの鼻頭に手をのばし、そっとさする。 キャロルが気持ちよさげに目を細めるのを見て、彼女は幸せそうに笑った。 「あはっ……あなたも私と同じで、撫でられるのが好きなんですね」 満足そうに一鳴きすると、キャロルはお返しとばかりに彼女の頭を鼻で撫でるようにさすった。 「きゃっ、もう、くすぐったいですよ~」 そんな風に言いながらも、彼女に嫌がる様子はない。 むしろ、同じように気持ちよさげにしているくらいだ。 やれやれ、これなら心配はいらないかな。 彼女たちのじゃれ合いはしばらく続いた。 そんな中で、僕はキャロルの行動に母性のようなものを感じはじめていた。 この辺りは猫が少ないのか、まだそういう事態になってはいないが、キャロルももう母猫になってもおかしくない年齢だ。 もしかしたら、生まれたばかりの彼女の姿に母性本能を刺激されたのかもしれない……ん、待てよ? 生まれたて……誕生……。 「それだっ」 急に声をあげた僕に驚いたのか、一人と一匹が揃って僕を見る。 僕は彼女に近づき、目線を合わせていった。 「君の名前が決まったよ……ノエルだ」 ラテン語で『誕生』を意味する言葉を語源とするこの名前……反射的に思いついたものだが、口にすればするほど、この世界に生まれた彼女と、この先の幸せを祝福するにふさわしい名前だと感じられる。 「ノエル……いい響きですね、嬉しいです」 幸せそうに笑う彼女……ノエル。 よかった、気に入ってくれたみたいだ。 そして僕は、彼女の目の前にそっと指を差し出した。 「それじゃ、これからよろしくね、ノエル」 「はいっ、暁人さん!」 彼女が両手で僕の指を掴む。 人間と神姫の、不恰好だけど気持ちのこもった握手だ。 帰り道で感じた不安は既になく、今の僕は、この新しい関係が少しでも長く続くことを願うばかりだ。 すっかり機嫌をなおしたキャロルの鳴き声が、彼女の誕生と二人の出会いを祝福してくれているように聞こえた。 1.武装神姫、里親募集中 TOP 3.僕と彼女とコーヒーと
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引きずり込む深海聖堂 ダゴンちゃん戦記 それは、ありえない現象だった。 フィールドは1VS1。 敵は一体で、タイプは新型機であるテンタクルス型マリーセレス。 こちらは現行最強の火力と装甲を誇る戦車型ルムメルティアだ。 確かに言うまでも無く、索敵に優れた機種ではない。 だがそれは、ルムメルティアもそのオーナーも重々承知。 ヘッドユニットの発煙筒を肩に移植し、中身は高性能のセンサーに換装済みだ。 流石に火器型やヴァッフェシリーズには及ばないにせよ、今まで索敵に困ったことは無い。 そもそも彼女のスタイルは豪快な近接格闘を重視しつつも、センサーと大砲による遠距離精密砲撃もこなせるマルチアタッカーだ。 防御は分厚い装甲に一任し、リソース(能力)は大半を格闘戦に注ぎ込む。 遠距離では高性能なセンサーから得た情報で狙いの甘さを補いつつ、当たれば一撃と言い切れる3.5mm砲で一撃を警戒させ真に得意とする近接格闘の間合いへ誘い込む戦法を得意とする。 敵からしてみれば厄介だろう。 射撃に自信があっても、戦車型の装甲を貫ける火器は限られる。 数を撃って攻撃力を稼ごうにも敵からの射撃は一撃当たれば終わりで、こちらは何十発も打ち込まねばならない。 かと言って近接格闘に持ち込んでも腕力と装甲にモノを言わせた戦法に対処する方法が無い。 言ってみれば、格ゲで言う所のスーパーアーマー状態が常時だ。 しかも腕力は真鬼王以上。 さて、攻略法を。 と言われても大半のオーナーは困惑するだろう。 それこそ基本性能として、彼女の装甲を打ち抜ける火力が備わっていないとどうしようもない。 そして、彼女の装甲は重装甲で名高い戦車型のそれである。 神姫によってはどう戦っても勝ち目が無いのだ。 この戦法で彼女は中位ランクのトップクラスにまで上り詰めている。 あと数戦で上位ランクに達し、更に上を目指す。 その為に獲物を探していたが、既に彼女を知るオーナーが多くなり、対戦が滞り始めていた所だ。 だからこそ、あまりポイントにならない中位に上がったばかりの新型からの対戦を受け入れたのだが…。 「そもそも『見つからない』と言うのは、どういう事でありますか!!」 『―――』 宥めるマスターの声がするが、苛立ちは押さえられない。 冷静にならねばいけないと分っていても、感情はそう簡単に制御できないのだ。 なにしろ、そう。見つからないのだ。 戦闘開始から既に10分。戦闘時間の三分の一が経過している。 確かにフィールドは薄暗く、視界は全てに行き渡らない。 だが障害物の数は多くなく、たとえ光学迷彩を使用したとしても発煙筒で作り出した結界の中では無意味だ。 機体が存在する限り、それはどうしても煙を押しのける。 更には煙の成分は容赦なく装甲表面に付着し、その迷彩精度を奪い、隠れる事など許さなくなる。 仮にも上位に挑み、勝つつもりの神姫なのだ。 カメレオン如きに苦戦など論外。 搦め手など蹴散らして当然。 負けるとすればより強い神姫のみだ。 だが。 「見つからなければ勝てないのであります!!」 『―――』 「負けなければ良いと言う問題ではないのであります!! 格下相手に引き分けになればそれは敗北と大して変わらなく―――!!」 それだ!! 「それが狙いでありますか!? 引き分けてポイントを稼ごうと?」 天海のシステム上、勝った神姫は負けた神姫のポイントを奪う事が出来る。 要するに勝てばランクアップ。 負ければランクダウンと言う単純なシステムだ。 これは、上位の神姫に勝てば大きくポイントが動き、下位の神姫に勝っても変動は少ない。 下位の神姫にしてみれば、上位の神姫を相手に負けてもさして痛手ではなく、チャレンジが容易に出来る仕組みだ。 勿論上位の神姫が下位の神姫を相手に負ける事を想定するなどありえない。 上位の神姫が下位の神姫を相手にするのはハイリスク・ローリターンであるが、そもそも負ける要素が無いのだからリスクはゼロに近い。 これがランクの差が縮まればそうでもなくなるが、その場合にはリスクとリターンのローハイも極僅かだ。 だが、今回のように中位最高クラスの神姫と、中位最低クラスの神姫ならばその差は明白。 負ければ大打撃だし、引き分けでも大きくポイントが動く。 敵の狙いがその引き分けだとすれば、このような消極的な戦闘も頷ける。 つまり敵は最初から勝負をする気が―――。 べちゃ。 何か落ちてきた。 戦車型の頭の上に。 「むぐぅぅ、れありまふぅ!?」 出番が残り少ない事を察してか、こんな状況でも律儀にキャラ立ては忘れない戦車ちゃん。 そんな彼女の頭の上。 否。 頭を包み込むように鎮座したテンタクルス型神姫、マリーセレス。 「ふんぐー、であります!!」 力づくで引っぺがして地面に叩きつけるが、まるで応える様子も無いマリーセレス。 「ちゃーお」 なんて挨拶までしてくるが、戦場でその隙は命取りだ。 シングルアクションで素早く3.5mm砲を構えると、そのまま接射!! 「まだまだぁ!! であります!!」 砲身をパージし、3.5mm砲の基部にサブアームで用意しておいたパイルバンカーユニットを接続。 砲煙の中に突っ込んでそのままトリガー!! 「トドメでありますぅ!!」 最後はパイルバンカーも捨て去り、サブアームの手のひらを祈るように組んで頭上に振り上げる。 「どっせーい!! でありますよーっ!!」 一発一発が必殺に値する威力の3連コンボだ。 たとえガード状態の種型でもガードの上から削り殺す!! 「時間ばかりかかったでありますな」 ふぅふぅ、と息を荒げながら最初の砲煙が晴れるのを待つ。 と。 「奥歯から鼻の穴突っ込んで指ガタガタ言わせてやる~」 煙の中から突き出してくるRPGが二本。 「え?」 距離は至近。 回避が間に合うようなタイミングではなく。 そのまま吹き飛ばされる戦車型。 と、その脚をつかまれ強引に引き寄せられる。 「コイツまだ生きて…。え?」 「本日のお天気は晴天、所により武装神姫が降るでしょう」 発言もトンチンカンだが、それ以上に解せないのが敵の状態。 “あの”3連コンボを喰らったと言うのにほぼ無傷。 精々装甲表面に焦げ目が付いている位で、パーツの欠損どころか目立った損傷すらない。 「貴様、何者でありますか!?」 「あたし?」 くき、っと小首を傾げるテンタクルス型。 「ダゴンちゃん。……カタカナみっつでダゴンちゃん」 「そこは『通りすがりの武装神姫だ、覚えておけ!』って言う所であります!!」 「軍曹さんはよく分からないことを言う」 「じ、自分の階級まで知っているでありますか?」 得体の知れない新型に、最早勝ち目が無い事を悟る戦車型。 テンタクルス型の由来ともなっているスカート状の触手が、一本大きく振り上げられるのを見ても最早打つ手が無い。 触手の先には長戦斧。 「ゲッゲーロ」 「軍曹って、ケロロ軍曹かぁーーーーーーーーーーっ!!」 叫び終わるや否、振り下ろされた戦斧がその勝負に決着をつけた。 敗北した戦車型が、最新鋭即ち“起動したての神姫”が僅か数日で下位クラスを突破したと言う事実に気づくのはこの後だった。 ◆ さて、その十分後。 ◆ 「嘘つきぃ~~~っ!!」 「ちょ、泣かないでよ人聞きの悪い!!」 件のテンタクルス型神姫、ダゴンちゃんが、神姫センター内にあるショップのショーウィンドゥにへばりついていた。 それはもうべったりと。 テンタクルス型の触手の裏に増設された吸着機をフル活用し、ガラス面にペッタリ張り付いて、引き剥がそうとする少女に抗っている。 「買ってくれるって言ったのに、言ったのに~~~っ!!」 「そりゃ言ったけど!!」 以下、回想シーンである。 「ちょっと、ダゴンちゃん。ちゃんと戦いなさいよ。チャンスなのよ勝てば丸儲け、負けても大して痛くないし」 「今日はお日柄が悪く天中殺の日です。主にますたーが」 「あたしがかい!?」 「それに。こうやって天井にへばりついてるの、好きかもですし~」 「戦えっつーの!!」 「んじゃ~、勝ったらご褒美下さいな」 「戦乙女型の武装をフルでとか言われても無理よ。何万も出せないわ」 「500円位です」 「まぁ、それなら」 「1000円位かもでしたが~」 「1000円までなら出します。勝ちなさい」 「頭の中でこーふん剤の特売ですぅ!!」 喜色満面、真下の戦車型に向かって落ちてゆくダゴンちゃん。 「いつの間に移動してたのよ?」 「会話中に動くなと言われなかったのか!! 動くのは神姫で、動かないのは良い神姫だ~ぁ」 「あー、ホントなんでこんなキチガイ神姫になっちゃたのかしら」 以上、回想終了。 「これ650円です~。1000円以下です~。お前のかーちゃんより安いです~ぅ!!」 「あたしもね、服やら武器やら防具ならやぶさかじゃないわよ。むしろ今日は頑張ったし漱石さん2人位ならお別れできる気分よ」 「やたっ!! 3個も買えるですか!?」 「“これ”は買わない」 「なんで~」 「あんたが買おうとしているのが『首輪』だからよ!!」 非常にSMチックなデザインで、ご丁寧に鎖まで付いている。 「これをつけてご主人様こんなの恥ずかしい、って皆の前で言うのがついさっきからの夢だったのに~ぃ!!」 「捨てちまえ、そんな夢!!」 「それじゃぁあっちのボンテージでも良いですよ」 「あっちはもっとエロいでしょうが!! ……って嘘!? こんなのが1万もするの!?」 「その謎を解明するのだぁ」 「しない、って言うかお金無い」 「お財布の隠しポッケに困った時の諭吉さんが」 「なんで知ってるのよ、アンタ!?」 「お金大好き」 「人間はみんなアンタ以上にお金が好きよ!!」 「齧るの?」 「齧らんわい!!」 「しゃぶる?」 「しゃぶらん!!」 「舐める?」 「舐めんな!!」 「犯す?」 「おk―――、花も恥らうJCにナニ言わすんじゃこのエロ神姫!!」 「せっくす」 「言うかぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「性別って英語」 「知ってるわよそんぐらい、脱ゆとり世代舐めんな!!」 「りぴーとあふたーみぃ“せっくす”」 「言えるかアホぉ!!」 「せっくす、せっくす!!」 「言わないわよ」 「せっくす、せっくす!!」 「……黙秘権を行使します」 「せっくす、せっくす!!」 そろそろ周囲がザワついて来た。 「せっくす、せっくす!!」 「だぁー、もう!! せっくすせっくす連呼すんな恥ずかしいでしょうが!!」 「ぱぁ~っ」(満足げ) 「あ!!」 かなりの大声で叫んでしまった。 「えっと、その」 周囲の視線が刺さる刺さる。 「違うんですよ。ほら」 あんな若い内からやーねー的な白い目の包囲網。 「これにはその、深い事情が」 メール打ってるやつ複数確認。 「逃げるわよダゴンちゃん!!」 「やだ」 逃走に移ろうとした手を引っ張るテンタクルス。 その触手はいまだベッタリとガラスケースに密着中だ。 「買ってくれたら離れてあげます」 「あんたは~」 「せっくす、せっくす」 「分ったわよ、買う。買います。買うから黙っててぇ!!」 こうしてダゴンちゃんは戦車型のみならず己がマスターにすら打ち勝ったのである。 対戦成績 引き摺りこむ深海聖堂:ダゴンちゃん。 VS戦車型:あっしょー。特に記載する事もない10分間。実質1分でケリついたし。 VS貴宮湊:しんしょー。流石にますたー超強敵。エロスに耐性があったらやばかった。 ダゴンちゃん戦記・姦!! 「字間違った」 ダゴンちゃん戦記・完!! テンタクルス型発売記念SS。 続くかどうかは未定。 しかしマリーセレス以上にラプティアスとアーティルの完成度が異常。 テンタクルス型も充分以上に楽しんですがね。 鷲&山猫はSS書きたいですが書くとアスカ以上の長編になりそう。 マリーセレス買った勢いでSS書いたALCでした。 -
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『"NOTRE-DAME" MARIE DE LA LUNE vs "ZYRDARYA" LALE SAITO』 仮想バトルフィールド上空に、文字が映し出された。 そしてその文字の横に数字が現れてバトルの開始時間をカウントダウンし始める。 「えっと、とりあえず、何したらいいのかな?」 私は目の前のクレードルで眠るマリーに聞いた。彼女の意識は今、筐体の中の電脳空間にいるのだけど、不思議なことに返事は現実の、クレードルの中のマリーから帰ってくる。 「まずはウォードレスを展開させてくださいませ。そうすればあとは私が美しく戦ってみせますわ」 「そっか。頑張ってね、マリー」 「はいっ」 マリーは目を閉じたままにっこりと笑った。 カウントダウンは最後の十秒を切る。電子音と一緒に数字はどんどん小さくなっていった。 開始三秒前、上空の文字は『READY』に変わる。 「いきますわ、のどか様」 私は軽く頷く。そして数字はゼロを示した。 「マリー、ウォードレス展開!」 そう言うと、マリーのドレスの裾のディティールが伸びて、前面ののこぎりのような形をした二本が、自由に動くライトセーバーのように、その他は小さな砲身を現して追撃用の機関砲になった。マリーはかなり可愛いものを選んだと思っていたけど、実際に展開したものを見ると意外とかっこいいものだ。 同時に相手は右手のポーレンホーミングを放つ。ハンドガンだというのにその弾は弧を描いて一つ一つがマリーを追う。その間にラーレはマリーとの間合いを詰めた。 マリーは飛びながらポーレンホーミングの弾を避けようとした。けれども高い誘導性能を誇るその弾は進行方向を百八十度変えてなおマリーを追った。そこへ猛スピードで間合いを詰めながら剣を構えるラーレがマリーの視界に入る。 「速いですわ」 関心しつつもマリーはウォードレスの機関砲をホーミングの弾へと向けて放った。そして両手で傘を持ち、ラーレの剣を受け止める構えを取った。 機関砲から発せられた弾幕は見事にポーレンホーミングを全て打ち落とし、とりあえずマリーは背後からの脅威から解放された。しかし次の瞬間、甲高い金属音と共にマリーとラーレは初めてお互いを至近距離で認識し合う。 「いいドレスですね」 鍔迫り合いをしながらラーレが言う。 「ありがとうございます。あなたのその銃も面白いですわ」 マリーがそう言い返すとラーレは不敵に笑った。 ††† カトー模型店の扉が開き、男が一人、入る。 「こんにちは、カトーさん。なんか盛り上がってますね」 「やあ、時裕君。今ね、のどかちゃんが戦ってるんだよ」 「あいつが?へえ、相手は?」 「斎藤香子ちゃん」 「...うちの妹に嫌がらせですか」 「いやいや、丁度女の子同士でいいと思って」 「のどかに香子ちゃんは倒せないでしょう。だって彼女は」 「それが結構頑張ってるんだよ、のどかちゃん」 「まだ香子ちゃんが手加減してるんじゃないですか?」 「そうだね...まだ"チューリップ"を使ってないところを見ると...」 「この店のオリジナルウェポンをあそこまで使いこなせるのは彼女だけですよ」 「うれしいことだねえ」 「ああ、哀れかな我が妹よ」 「君は本当にのどかちゃんのことが好きなんだな」 「そりゃあもう。アーニャの次に」 二人の男は再び視線を筐体に戻す。 ††† 数回、斬りあった後、ラーレはうしろに退いて、広めの間合いをとった。そしてまたポーレンホーミングを打つと、今度は腰から先にチューリップを模した飾りをつけた棒を取り出す。マリーは打撃系、もしくは投擲系の武装だと思って、傘をソードモードからライフルモードに構え直した。先のような急速接近で瞬時に懐まで迫らせないようにするためだ。 ポーレンホーミングから放たれた高誘導弾は例のごとくマリーのドレスに打ち落とされる。恐らくラーレはポーレンホーミングを決定力のある装備ではなく、間合いを取ったり、対戦相手を自分の思う場所に誘導するための補助的な装備であると考えているだろう。 手に持った棒を、ラーレは器用に片手でクルクルと回す。ジルダリアのスレンダーな体型も味方して、その姿はバトン競技のトッププロのようだ。 「今日が初めてのバトルのあなたに、こんな仕打ちはひどいかもしれませんが...マスターの記録を更新するために、全力で勝たせていただきます」 「光栄ですわ」 そう言ってラーレは回すのを止めた。そしてユピテルが雷を放つように、その棒をマリーに向かって投げた。 「ジャベリンですわね」 マリーは当然のようにそれを避けようとしたが、その前に飛んでいる棒の先のチューリップが開き、そこからさらに何かが発せられる。霧のようなそれは僅かにマリーの足に付着した。 乾いた音をたてて棒は着地した。その様子を見届けてラーレはまた手に剣を握る。 「さっきのは一体なんなんですの?」 「すぐにわかります」 二体の神姫は再び剣による近接格闘戦を始めた。マリーは傘で攻撃しつつも、ドレスで細かく間合いを取り、ラーレも主となる攻撃は剣であるものの、ポーレンホーミングを巧く使い見事に隙を埋める。単純な斬り合いのように見えるが、実際は双方が一瞬の隙を伺い合う頭脳戦であった。 しかしそれがしばらく続いたあと、マリーは異変に気づいた。足の動きがだんだんと鈍くなっていったのだ。sそれもさっきの霧のようなものが付着したあたりから。 「これは...?」 「効いてきたようですね。あの杖――トライアンフは麻痺性の液体を高圧噴射するものです。こっちのフレグランスキラーと違ってあの杖は遅効性。ゆっくりと、気づかないうちに機能を停止させるのです」 ラーレが説明する間も、非常に遅いスピードで、しかし確実にマリーの足は動きを遅くしていった。 『マリー!大丈夫!?』 「大丈夫ですから、のどか様は今と同じ指令を続けてください」 『左だよっ、マリー!』 気がつかないうちに、気づけない間にラーレが放った最後のポーレンホーミングの弾がすぐそこまでマリーに迫る。咄嗟にドレスの機関砲を向けたが、間に合わなかった。七発中の二発がマリーに直撃し、マリーの体が飛ぶ。胸元の赤いリボン状のディティールが煤けた。 「んっ...」 初めてマリーが苦痛の声を上げた。 『ねえ、もう止めようよ!もう少し強い装備にしてからまたやればいいからっ!』 「それは...ダメですわ...」 『マリー...』 「わたくしは人形型武装神姫。この姿で勝てるようにならなければ意味がないのですわ!」 マリーは再び立ち上がった。足はすでにただ体重を支えるだけの棒となっていたがなんとかバランスをとって傘を構える。 「...次が最後ですね」 ラーレが言う。彼女もまた剣を構えた。 その数秒後、ラーレが風を斬る。 ――ほんの刹那の後、ラーレの剣の切っ先はマリーの首筋に迫っていた。 ††† 「えっ?神姫バトルを始めてからずっと無敗だった!?」 香子ちゃんは静かに頷いて、彼女の肌理細やかで白い頬がうっすらと桃色に染まる。私はそんな仰天事実に開いた口が塞がらなかった。 「カトーさんの勧めで始めたんですけど...」 「そう。一戦目からずっと負けなし、四十七戦連勝。この店のオリジナルウェポン"チューリップ"を使いこなす戦い方は毒を持つ可憐な花そのもの。いつしか『プリンセス・オブ・ワイトドリーム』の通り名で呼ばれるようになった俺たちのアイドルだ!」 私と香子ちゃんはその声の主のほうへ顔を向けた。いや、私はその声が誰のものかわかっていたのだけれど、あまりのバカっぷりに向きたくなくても向いてしまったのだ。まわりで同調してる男の子たちもちょっとアレな感じだけど、こんなバカなことを堂々と言えるのはお兄ちゃんだけだろう。 「いつからいたの?」 「お前が負けそうになってたころから」 お兄ちゃんの肩に乗ったアーニャがお辞儀をした。 「あ、あの...のどかさんと時裕さんってお知り合いなんですか?」 香子ちゃんは私とお兄ちゃんの顔を交互に見て言う。その様子が少しおどおどとしていて、私は不思議に思った。 「うん、知り合い、兄妹。ていうか、香子ちゃんがお兄ちゃんの名前知ってるほうがびっくりだよ」 「そりゃお前、俺は香子ちゃんファンクラブ(ナイツ・オブ・ワイトドリーム)の会員ナンバー一番だからな。当然だろ」 「よかった...」 『よかった』...?えーと、この何気ない彼女の言葉からとてつもなく危険な香りがする。 それだけはダメな気がする。なんというか、香子ちゃんの将来的に。 とりあえずお兄ちゃんのほうに警告しておこう。 「ダメだよっ!妹と同級生の娘に手を出すなんて、大人として!」 私はお兄ちゃんの耳元で小さく言った。お兄ちゃんは何のことだ、という顔をしたのでそれ以上は何も言わなかった。 「しかし、俺は悲しいぞ、妹よ。そんな我らのアイドルをあんなふうに倒してしまうなんて。お前は香子ちゃんが可哀想だと思わんのか」 「いえ、負けは負けですし、私も調子に乗ってたんです。それにマリーさんはとっても強かったです」 香子ちゃんの制服のポケットからラーレが顔を出してそう言った。 ††† ――確かにラーレの剣の切っ先はマリーの喉に迫ろうとしていた。 しかしそれはあくまで迫ろうとしていたのである。 数ミリ手元を動かせば切っ先は間違いなく突き刺さる位置ではあったが、ラーレはそれ以上動けなかった。彼女の腹にはマリーの傘の先がピッタリと、一ミリの隙間もなく触れて、さらに両脇を、二本のクワガタの角のようなウォードレスの武装が挟み込んでいたからだった。 「少し、手元がブレましたわね」 マリーが言った。 ††† 「人形は少しも狂いのない精密な造りであって初めて、価値があるのですわ」 マリーが私の頭の上をふわふわと浮きながら得意気にそう答えた。 「うむ、素晴らしい。それでこそ人形型武装神姫ノートルダムだな」 「細かい設定と調整はみんなお兄ちゃんでしょ」 「だから素晴らしいって言ったんだ」 私は深くため息を吐いた。お兄ちゃんの無駄に自信満々な言葉に呆れたのもあるけれど、それをキラキラと輝く目で見つめる香子ちゃんにもちょっと呆れたからだ。 「さて、のどかちゃん、マリーちゃん。どうだった初めてのバトル、しかも勝利の味は?」 カトーさんが私たちにそう尋ねた。 私はマリーの顔を覗く。彼女もまた私のほうに顔を向けた。 「楽しかったですわ」 「そうだね、楽しかった」 それはよかった、とカトーさんは笑った。 「香子ちゃん、今度またバトルしようね」 「ええ。次は負けませんよ」 作品トップ | 前半